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保育の担い手は確保できるのか――。首都圏を中心にそんな不安が高まっている。政府は2017年度までに待機児童をなくす方針だが、それには多くの人材が必要だ。資格を持つ人は多いが、離職率も高い。保育の現場で働きたいという人の意欲をどう後押しし、働きやすい環境を整えていくか。行政や事業者の工夫が問われている。

昨年12月、川崎市内で「保育のしごと就職支援セミナー」が開かれた。県や横浜、川崎市などが共同で設けた「かながわ保育士・保育所支援センター」が主催。保育士として働いていない潜在保育士の掘り起こしなどを目指したイベントだ。

約60万人が潜在

再就職した女性が自らの体験談を話す(川崎市で)

再就職した女性が自らの体験談を話す(川崎市で)

セミナーでは、実際に再就職をした人も自らの体験談を話した。「年齢、体力、ブランク……。最初は尻込みしがちだったが、センターで親身に相談に乗ってもらった。様々な勉強会に参加し、仲間ができたことも後押しになった。必ず一歩踏み出せる」。約30年のブランクを経て、プロケア(東京・中野)が運営する横浜市内の保育施設で12月から働き始めた清水尚美さん(55)はエールを送る。

資格を持っているが保育士として働いていない潜在保育士は60万人以上。再就職を後押しする取り組みは、首都圏を中心に各地で行われている。実際に保育所での実習ができるところも多く、再就職を目指す人には追い風だ。

背景には、保育士の需要の高まりがある。待機児童を減らそうと急ピッチで保育施設の整備が進み、人材は慢性的に不足している。かながわ保育士・保育所支援センターでは昨年1月の開設から11月までに74人が就職を果たした。一方、セミナーの日の午後に50以上の事業者がブースを出し相談会が開かれたが、参加者は少なかった。

保育士不足は数字に明確に表れている。有効求人倍率は例年、1月が最も高くなる。だが、東京都では14年11月の時点で4.7倍に達した。神奈川、埼玉など4県で2倍を超え、全国でも1.7倍と全職業の1倍を上回った。

待機児童の数が14年4月時点で1109人と全国で最も多かった東京都世田谷区。今年秋から、西日本など首都圏以外の都市で説明会を開くことを決めた。比較的、人材に余裕がある地方から人材を集めるためだ。これに先立ち今年4月からは、職員のために部屋を借りる事業者に家賃を補助する制度も始める。

区内では今春、新たに認可保育所、認証保育所合わせて12園がオープンする予定だ。だが「うち5園でまだ必要な人材が確保できていない」と同区。ハローワークと連携して採用活動の後押しを急ぐ。

不足の背景には、責任の重さなどに比べ給与が低いこともある。厚生労働省の13年の賃金構造基本統計調査によると、民間で働く保育士の平均給与は月21万3千円。全職種の平均より10万円ほど低い。勤続年数も7.6年と短めだ。

国は13年度から、民間の保育所で働く人の処遇を改善するための補助を始めた。15年度から始まる「子ども・子育て支援新制度」でも、処遇改善の加算制度を設ける。

17年度までに2万8千人の保育士が新たに必要と試算した東京都では、国の制度に上乗せするかたちで、独自の補助制度を15年度から始めることを検討中だ。

働きやすさも欠かせない。国の加算制度では、キャリアアップのための仕組みをつくるよう事業者に求める。より多様な働き方を用意することも大事だ。

アートチャイルドケア(大阪府大東市)は13年10月から「ナーサリーママ」という契約社員の制度を導入した。子どもが小学3年生までの人が利用でき、昼間の時間帯に短時間働ける。従来、短時間の勤務は朝か夕方に限られていた。また今春入社する社員の多くは、新設した「地域限定社員」だ。従来、全国転勤可能な社員を採用してきたが、働き手の希望に合わせた。

奨学金の制度も

保育士を目指す人の奨学金も出している。認証保育所で働く菅谷詠美さん(31)は、2歳の子どもを育てながら大学の通信課程で学んでいる。「児童の心理学などとても勉強になる。しっかり学んでより専門性を高めたい」と話す。

保育の仕事は子どもの成長を支えるとても重要な仕事だ。子ども・子育て支援新制度では、保育士の配置をより手厚くし、保育サービスの質を向上させることも目指している。国は近く総合的な確保策を打ち出すが、どこまで実効性を高められるか。一層の工夫が求められている。(編集委員 辻本浩子)

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