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父子家庭のパパは最後の最後までSOSを出さない

2015/1/22

日経DUAL

「男性の皆さん、もし明日、奥さんが病気で倒れたら、子育てや介護をしながら今の仕事を続けられますか?」――宮城県仙台市在住で東北の父子家庭支援を行っている、NPO法人・全国父子家庭支援連絡会・村上吉宣(むらかみよしのぶ)さんが問いかけます。現在、日本の「ひとり親世帯」の7世帯に1世帯は父子家庭です。35歳のシングルファザーで2人の子供を育てる村上氏へ、ジャーナリスト治部れんげ氏がインタビュー。シングルファザーの課題を考えます。

―― 共働き家庭とひとり親家庭は、保育園や学童保育などで接点があります。両者が自然に関わっていくために必要な「心構え」があるとすれば、どのようなものでしょうか?

■ひとり親家庭の「気負いの大きさ」を知ってほしい

村上吉宣(以下、村上) 共働き夫婦もひとり親も、どちらも子育てしながら働く親であることに変わりはありません。一つ大きな違いは、ひとり親は「ひとりで立っている」ということ。だから、ものすごい「気負い」があります。

全国父子家庭支援連絡会・村上吉宜さん(写真右)

シングルになった理由は人それぞれですが、例えば「離婚してはいけない」とか「人に相談なんてしてはいけない」という具合に、世間のルールで自分自身を縛っているひとり親はたくさんいます。

共働き夫婦なら、どちらか片方が目いっぱい働き、もう片方が家庭を優先するなど、ブレーキとアクセルを二人で組み合わせて調整できます。でも、ひとり親は、常に目いっぱいアクセルを踏んでいる状態です。精神状態がかなり張り詰めている。

経済面だけでなく、精神面でもこういう違いがあることを、知っておいていただいたうえで、自然に会話してもらえたらいいと思っています(図1)。

―― 「気負い」の大きさが違うのですね。

村上 はい。昨年、東京都江東区で父子家庭の父親が、5歳の息子を殴って死なせてしまった事件がありました。これを聞いたとき、私は「人ごとではない」と感じたのです。

このお父さんは、男手一つで育てているからこそ、育児に手を抜いてはいけないと、気負っていたのではないか。きちんとしなくては、と思い込み過ぎ、子どもの5年後、10年後を考え過ぎて過剰にしつけへと促された結果、オーバーヒートしてしまったのではないか、と思いました。

図1

■ひとり親に関する調査や支援は、母子家庭を想定している

―― 父子家庭の父親を追い込むものは、何なのでしょうか?

村上 大きな問題を2つ挙げると、ジェンダー規範の問題と、そして、ワークライフバランスを取ることです。

その前に、ひとり親家庭の全体像についてお伝えしたいと思います。2011年度「全国母子家庭等調査」によると、母子家庭は123万8000世帯、父子家庭は22万3000世帯あります。「ひとり親世帯」の7世帯に1世帯は父子家庭ということになります。

母子家庭の母親は8割が就労しており、これは海外と比べても高いのですが、父子家庭では9割が就労しています。母親自身の年間平均就労収入は181万円、父親は360万円です。

数字だけを見ると、父子家庭は母子家庭より収入が高く、生活に問題は無いように思われるかもしれません。でも、実情は厳しいです。

今、引用した調査は「母子家庭等」という名称です。この言葉に象徴されるように、ひとり親に関する調査も支援も母子家庭を想定して作られているのです。多くの場合、シングルファザーは「等」の部分に自分達が含まれることにすら気づきません。

やや堅い表現でいうと、政策にジェンダーバイアスがあるため、当事者である父親を、受けられる支援から遠ざけてしまっているのです。

―― 確かに言葉の問題は大きいです。出産前に受ける講習を「母親学級」から「両親学級」に名称変更する自治体が多い昨今ですから、「母子家庭等」の表現も考え直してほしいですね。

■親と一日に2時間以上一緒に過ごせている子どもは、父子家庭では65.5%

村上 もう一つの問題は「時間」です。2011年11月に独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した調査によると、平日、普段、睡眠時間を除いて、子どもが親と2時間以上一緒に過ごしているのは、共働き家庭で89.9%、母子家庭で81.9%ですが、父子家庭では65.5%にとどまります(図2)。

父子家庭の父親は収入を維持しようとすると長時間労働になり、子どもと過ごす時間が極端に短くなってしまいます。私が聞き取り調査をしたある父親は、小学校1年生の子どもと暮らしていますが、帰宅は毎日夜10時を過ぎます。彼は、住宅ローンを返済するため、仕事を変えることができません。子どもは寂しくて、夜、友達の家を一軒ずつ回っている。近くに育児支援をしてくれる親族はいません。

父子家庭は、究極のワークライフバランスを求められているのです。子どもと過ごす時間を増やすために、雇用が不安定で収入が激減するけれど、転職を選ぶ人もいます。一方、住宅ローンや教育費のことを考えて正社員で高い収入を維持しようとしたら、長時間労働するしかない。

共働き夫婦なら、配偶者が仕事量を減らして調節できるかもしれませんが、ひとり親にそういう選択肢は無いのです。

図2

―― そういう状況下で、父子家庭のお父さん達は何を求めているのでしょうか?

村上 実は「助けてほしい」という人はほとんどいません。ついこの間も、あるメディアから、かわいそうな事例を紹介してほしいと頼まれましたが、みんな、自分の力で頑張りたいと思っているから、そういうコメントが出てこない。

シングルファザーが「助けて」というのは、本当に追い詰められて生きるか死ぬかの瀬戸際か、もしくは精神疾患を抱えているような場合です。最後の最後までSOSを出さないし、出せない。「男なんだから」頑張らないと、という思いもあるでしょう。

やはり、目指すところは「父親が子育てしながら働きやすい社会」です。なぜ、父子家庭になった途端にいろんなことが大変になるのか。考えてみると、夫婦二人でいるときから問題があったことが分かります。要するに、父親が子育てに参加したら働けないような社会の状態が問題なのです。

■ひとり親家庭が、経済支援を受けながらも自立していく過程を応援してほしい

―― こういうお話は、男性の心にも響くと思います。以前、国際協力NGOのオックスファム・ジャパンが開いた勉強会で「男性の皆さん、もし明日、奥さんが病気で倒れたら、子育てや介護をしながら今の仕事を続けられますか?」と村上さんが問いかけたことがありましたよね。すると会合終了後に男性の参加者が壇上の村上さんのところに飛んでいって話を聞いていた風景が心に残っています。

村上 そんなこともありましたね。本当はワークライフバランスって男性にとっても重要なのに、なかなか伝わらない。でも、「もし、奥さんがいなくなったら…」と具体的に想像してもらうと伝わるので、男性相手にはあのように話しています。

―― 今日お話いただいた父子家庭の課題を発信するために、団体を作っていらっしゃいますね。

村上 2008年に任意団体として宮城県父子の会を設立しました。2009年にこれも任意団体で、全国父子家庭支援連絡会を作り、2010年にNPO法人化しています。

これまで、父子家庭への支援拡充を求める意見書を作成し、厚生労働大臣や復興大臣、全国の都道府県議会に要望を提出してきました。おかげさまで、22の都道府県、104の市町村議会で採択されています。

私達が要望してきたなかで、例えば、児童扶養手当は2010年8月から、遺族基礎年金は2014年4月から父子家庭にも支給されるようになりました。今後も「母子」に限ったいくつかの支援制度を「父子」にも拡充することを求めていきたいです。

―― その他に、働く親に伝えたいと思っていることはありますか。

村上 「福祉的就労」を認めてほしい、と思います。平たく言えば、生活保護や遺族年金など、公的支援を受けながら働くことが社会に受け入れてもらえるようになってほしいのです。

多くの方のイメージでは、生活保護や遺族年金は「弱者支援」ですよね。でも、そういった経済支援を受けながら、生活を立て直し、傷ついた心を癒やして再び働けるようになり、最終的には再び納税者になって、支援なしでも自分と家族を支えられるようになる…、そんな再チャレンジを受け入れて応援してもらえたら、と思います。

取材後記
「働く親の再チャレンジを支援することは、当たり前のこと」と私には感じられました。かつて、マネー雑誌の編集部では「年金をもらいながら働く」とか「年金受給できるギリギリラインまで仕事をして収入を最大化する」といったテーマを、当たり前のように扱っていたからです。村上さんが言う「福祉的就労」も、こういう枠組みで捉えれば、認められて当然。再チャレンジして再び納税者になる仕組み、そして子どもに負担が少ない仕組みづくりを、働く親が求めていく必要があると思いました。
治部れんげ
ジャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。その間、2006~07年フルブライト・ジャーナリストプログラムで米国留学。ミシガン大学客員研究員としてアメリカの共働き子育て先進事例を調査。13年4月から現職。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。Twitter:@rengejibu

=敬称略

[日経DUAL2014年12月11日付の掲載記事を基に再構成]

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