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朝・夕刊の「W」

女性と流行語の45年史 アンノン族からリケジョまで

2014/12/27

「アンノン族」「オヤジギャル」、そして「リケジョ」――。戦後日本の女性たちに貼られたレッテルの数々。それら新語・流行語の変遷は、時々の「働く女性像」や、女性と仕事との関係の変化を映し出す。

■助走期(1970年~) 日本を旅したアンノン族

1970年。団塊世代にあたる20代の女性たちが一斉に日本を旅し始めた。手にした雑誌名からアンノン族(注1)と命名。この年国鉄が始めた宣伝「ディスカバー・ジャパン」も狙いを若い女性に据えた。

女性の1人旅がワケありと見られ、宿泊拒否も珍しくなかった時代。女性だけの旅は、「一種の自己主張」(難波功士・関西学院大学教授)だったといえる。背景に、働く女性の増加がある。64年誕生のOL(注2)という呼称もこの頃定着。自由と時間と経済力を手にし、まず消費市場を変えていった。

彼女たちの多くは「寿退社」して団塊ジュニアを産むが、一部は「腰掛け」を脱しプロを目指す。75年9月11日の日経流通新聞は第1面をすべて使いキャリアウーマン(注3)を特集。「まだ一般化していない言葉」と前置きしたうえで、20代後半以降も退職しない女性たちが新しいライフスタイルを生むと予測した。

78年、三菱商事は米国の「キャリアウーマン向け」ファッションブランドの輸入を開始。自由を謳歌する翔(と)んでる女(注4)が注目される一方で、イメージが暗転したのが専業主婦だ。くれない族(注5)、思秋期(注6)など、家庭に入った女性の孤独を背景にした新語も注目された。

■離陸期(1986~) バブルと生きたハナコ族

1986年に男女雇用機会均等法が施行。バブル景気も手伝い、働く女性は時代の主役になる。親と同居して給料全部を消費に回す女性も。

「(東京の)丸の内で働き銀座で遊ぶOL」を狙い、有楽町に商業ビル「マリオン」が開業した。ハナコ族(注7)を生んだ女性誌「ハナコ」を88年に創刊した椎根和氏は「抑えられていた女性たちの欲望が、バブル到来で外に向かった」と振り返る。

有楽町マリオンが人気の場所に
会社訪問解禁日に企業の前に並ぶ女子大生ら(1992年07月、都内)

協同広告の女性チームがまとめた白書「It's OL Show Time!」(89年)は「どこの業界も、私たちを狙ってる」と記し、社内恋愛用の小型トランシーバー開発などを提案。エネルギッシュなオヤジギャル(注8)はゴルフ、飲み屋、競馬と中年男の居場所にも進出する。

バブル崩壊で消費が減速しても、仕事への熱意は衰えない。JTB、東京ガスなどの女性社員が出版した「ニッポンのOLたち」(95年)は「家で朝日と日経を読み駅で日経産業、日経流通、ビジネス誌を買う」仕事ぶりや、お局様(注9)と呼ばれる「ベテラン社員」が女性用休憩室に集う姿を描く。

不本意な「寿退社」を強いられた団塊世代の母親も就職氷河期で苦闘する娘の就職活動を応援。99年には男女共同参画社会基本法も施行し、女性の社会進出はこのまま加速するかに見えた。

■揺動期(2000年~) 愛されエビちゃんが席巻

雑誌「キャンキャン」の全盛期をリードした蛯原友里さん(2006年11月、都内)

制度より文化を変える方が難しい。2000年以降、男女平等へのバックラッシュ(揺り戻し)が一気に表面化。03年に千葉県で男女共同参画の条例案に「行き過ぎた内容」として議会が修正案を提出、廃案となったのが典型例だ。女性を本格採用した企業も「使い方」で試行錯誤が続いた。

この時期に3タイプの女性像が生まれた。1つはカツマー(注10)。ビジネススキルを磨き、高度な自立能力を身につける道だ。

経済評論家の勝間和代氏の生き方も話題に

2つ目はエビちゃんOL(注11)。ゆるふわファッションで「モテる」「愛される」ことを目指す。名古屋嬢(注12)やシロガネーゼ(注13)もこの流れ。婚活の隆盛にも火を付けた。政府の調査では20代女性の4割が「男が外で働き、女は家を守る」との考え方に賛成。30代以上を上回った。「カツマー現象と婚活の流行は安心欲求の高まりという意味で同根」だと詩人で社会学者の水無田気流氏はみる(「無頼化する女たち」)。

これら2タイプはどちらも女性の「出世」(斎藤美奈子「モダンガール論」)志向。これに対し戦いから降りてしまう第三極が負け犬(注14)や干物女(注15)だ。無駄に張り合わず、仕事も生活もマイペース。おひとりさま(注16)市場の主役でもある。

■巡航期(2011年~) キャリアも趣味も多様に

「お局を、飛び出しとうとう、レジェンドに」。働く女性向けのフリー紙「シティリビング」が募る「OL川柳」の今年の入賞作のひとつだ。「働き続けることが普通になり、ベテラン社員を煙たがるのではなく、あの人はすごいと尊敬するムードが表現されている」と山内綾子編集長は解説する。

リーマン・ショックに東日本大震災と人生観を問い直される出来事が続く。普通に働き、地に足のついた生活を送り、つながりを自然に作る。そういう姿勢が広がる。

土木分野でも女性の活躍が増えるようになった(2013年4月、都内)

仕事以外で張り合いを見つけようと花開いたのが趣味の多様さだ。歴女(注17)、鉄子(注18)、文化系女子(注19)、山ガール(注20)。仕事でもリケジョ(注21)にドボジョ(注22)と、興味に忠実。いずれもマニアックで男の世界とされていた分野だ。

対抗心ではなく楽しいから、面白いから取り組んでいる点が今風。バリキャリ/ゆるキャリ(注23)という分類も登場した。「政府の女性政策はバリキャリだけに焦点をあて過ぎ。大半の働く女性たちとすれ違いが起きている」と女性意識に詳しいライターの牛窪恵氏は指摘する。

働く女性像や女性自身の価値観は短期間にめまぐるしく変化してきた。自分がどんなイメージや物差しをいつ、なぜ抱いたのか。社会現象が生んだ流行語を手掛かりに、あらためて点検してみたい。

(編集委員 石鍋仁美)

注1 1970年「アンアン」、71年「ノンノ」が創刊。萩や津和野など日本の地方を旅する特集で部数を伸ばした
注2 和製英語「オフィスレディー」の略。雑誌「女性自身」が読者投票などをもとに提唱
注3 日本初のキャリアウーマン意識調査の結果を報じた78年10月21日の日経新聞記事は「男性と対等に働いて生きようとする実力派勤労女性」と解説
注4 翔んでる=俗に、世間の常識にとらわれず、思い通りに自由に行動するさま(三省堂「大辞林」)
注5 84年のTBSドラマ「くれない族の反乱」から。「××してくれない」と夫に不満を募らす主婦を指す
注6 82年出版のルポ「妻たちの思秋期」(斎藤茂男)から。孤独からアルコール依存などに陥る中流家庭の主婦を描いた
注7 雑誌「ハナコ」の想定読者は「27歳、公務員、海外旅行も普通」
注8 漫画家・中尊寺ゆつこ氏の作品から。90年に流行
注9 職場を仕切るベテラン女性。89年放映のNHK大河ドラマ「春日局」を機に広がる
注10 経済評論家・勝間和代氏の本を愛読し、生き方を追う女性
注11 雑誌「キャンキャン」全盛期の専属モデル、蛯原友里氏を手本とする女性
注12 保守的な名古屋の箱入り娘。2005年の愛知万博を機にファッションや髪形が全国に広がる
注13 東京・港区の高級住宅街、白金に住む専業主婦。雑誌「ヴェリィ」が命名
注14 酒井順子氏のエッセー「負け犬の遠吠え」(03年)から。有職だが独身で子どものいない女性
注15 ひうらさとる氏が04年から連載する漫画「ホタルノヒカリ」の主人公。仕事にはまじめだが功名心は薄く、服装や恋愛にズボラなアンチ・バブル世代
注16 高級レストランなども1人で楽しむ女性たち
注17 歴史好きの女性
注18 鉄道好きの女性
注19 漫画や現代美術などサブカルチャーに熱心な女性
注20 登山好きの女性
注21 理系の女子学生や研究職の女性
注22 土木分野で働く女性
注23 バリバリ働きたい上昇志向型キャリアウーマン(バリキャリ)に対し、私生活や趣味なども重視するのがゆるキャリ。1人の女性がライフステージによって使い分けることも

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