2014/12/28

所得と「語りかけ」とIQの関係

20年ほど前、米国カンザス大学の児童心理学者たちがある研究を行った。低所得層から高所得層までを含む42の家庭を対象に、親子の会話のやりとりを録音し、子どもが生後9カ月から3歳に成長するまで追跡調査したのだ。

その結果、驚くべきことがわかった。両親が大学教育を受け専門職に就いているような裕福な家庭では、子どもは1時間当たり平均2153語の語りかけを耳にしていたのに対し、生活保護を受けている家庭では平均616語と大差があった。低所得家庭の親は、子どもにかける言葉も「だめ」「下りなさい」など短い命令調のものが多く、生活に余裕のある家庭では、ある程度長い会話が交わされることが多かった。低所得家庭の子どもは、いわば言語発達のための「栄養」が不十分だということだ。

さらに、親の語りかけの量が大きな違いを生むこともわかった。親との対話が多かった子どもは、3歳の時点でIQがより高く、9歳と10歳のときにも学校の成績が比較的良かった。

テレビやスピーカーの「語りかけ」では効果なし

子どもに多くの言葉を聞かせるだけで済むなら、話は簡単だと思うかもしれない。だがテレビやCD、インターネットやスマートフォンでいくら言葉を聞かせても、あまり効果は期待できないようだ。ワシントン大学の神経科学者パトリシア・クールらは、生後9カ月の赤ちゃんを対象とした調査で、このことを実証した。

赤ちゃんは1歳までに母語の音声を聞き分けられるようになるが、これはなぜなのか。

実は、赤ちゃんは生後数カ月まではどんな言語の音声も聞き分けられる。だが生後6~12カ月の間に母語を聞き分ける能力が発達する一方で、外国語の音声を聞き分ける能力が失われていく。たとえば、日本人の子どもなら、この時期に英語のLとRを区別できなくなる。

クールたちは、英語を話す家庭の生後9カ月の赤ちゃんに中国語を聞かせる実験を行った。第一のグループでは中国語を母語とする保育士たちが遊び相手をし、本を読み聞かせた。二つめのグループには、同じ保育士たちが中国語を話す映像をビデオで見せた。三つめのグループには映像は見せず、録音した音声だけを聞かせた。

すべてのグループに12回のセッションを受けさせた後、中国語の音声を聞き分けられるか、脳磁計を使ってテストしたところ、成績に大きな差がみられた。

生身の触れ合いがあったグループは、中国語を母語とする人たちと同様に音声を聞き分けられた。ところが映像や音声だけで見聞きし、実際の触れ合いがなかった二つのグループは、中国語の音声をまったく判別できなかったのだ。

「この発見で脳についての基本的な考え方が変わりました」とクールは語る。彼女はこの研究結果などを基に、ある仮説を提唱した。他者との関わりが、言語、認知、感情の発達の入り口となるという説だ。クールはこの考えを「人間関係の入り口(ソーシャルゲーティング)仮説」と名づけた。

(文=ユディジット・バタチャルジー/写真=リン・ジョンソン)

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2015年1月号の記事を基に再構成]

[参考]ナショナル ジオグラフィック2015年1月号では、赤ちゃんの脳の研究最前線を特集するほか、人類に大きな進歩をもたらしたアートの起源を探る「人類はいつアートを発明したのか?」、巨大都市ラゴス/ダークマター最前線など特集6本を掲載。日本版20周年記念の118ページ特製付録「日本のエクスプローラー」も付いています。

NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2015年 1月号 [雑誌]

編集:ナショナルジオグラフィック
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:1,090円(税込み)

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