演劇回顧2014難題に挑戦した力作、観客創造への希望託す

ある公共劇場の幹部から「有名タレントを起用しないと切符が売れない」と嘆く声を聞いた。経済の「失われた20年」で減少したのは助成金ばかりではない。売れる舞台へと演劇界が傾斜するあまり、目の肥えた観客が育たなくなった。練りあげられた芸、アンサンブルの妙、演出から見える世界への問いかけ、そういったものを味わおうとする見巧者は高齢化し、数も減りつづける。

そもそも若い世代の多くは経済的に余裕がなく、観劇の機会にも恵まれない。文化立国にとって次世代の考える力、創造する力をはぐくむことほど大切なものはない。未来をつくる使命をになう公共劇場がいま取り組むべきはなにより「創客」であろう。

年間の収穫をふりかえるとき、こうした趨勢に屈せず、難題に挑戦した仕事が強い印象とともに思い返される。フランスのアヴィニョン演劇祭で賛辞を集めた宮城聡作・演出の「マハーバーラタ」。静岡県舞台芸術センター(SPAC)が本拠の野外劇場でくりかえし上演した作だが、世界で最も注目される演劇祭のメーン会場(野外の石切り場)で、絵巻物を意識した円形舞台を出現させた。

アジアの芸能を混交し、平和への祈りをこめた祝祭劇。神奈川芸術劇場(KAAT)の協力で再現されたアヴィニョン版の舞台は、過去の上演を超える躍動感だった。SPAC芸術総監督の宮城が地域に根をはる努力を重ねた結果、若い観客が静岡では育っている。地域の観客が育てた「マハーバーラタ」が国境を越えて評価された意義は大きい。

生身の身体を用いる演劇は、言語を超えて感覚を共有する場を与えてくれる。日韓の合作舞台がその素晴らしさを改めて教えてくれた。韓国の権威ある東亜演劇賞で昨年3冠を制した多田淳之介演出、ソン・ギウン作「カルメギ(かもめ)」のKAAT公演はとりわけ鮮烈だった。東京デスロックと韓国の第12言語演劇スタジオなどとの共同制作。植民地時代の朝鮮半島と日本の関係をチェーホフ劇の屈折した恋愛模様に映しだし、支配、被支配の悲喜劇を身体感覚から探ったのだ。

歴史認識問題にかかわる内容だけに場面づくりもセリフのニュアンスも慎重さが求められた。そのことが表現の強度を増した面がある。ボレロの響きから終わりのない絶望が印象づけられたのである。トレープレフのイ・ガンウク、ニーナのチョン・スジの瞬発力に見ほれた。多田は埼玉県富士見市のキラリふじみ芸術監督として、子供のためのワークショップに取り組む一面をもつ。

東京芸術劇場が韓国の明洞芸術劇場と共同制作した野田秀樹作・演出の韓国語公演「半神」もエネルギッシュ。主役チュ・イニョンが力強いセリフを聞かせた。ソウルで1カ月の稽古を試み、緻密に仕上げた労作だった。

演劇賞を総なめにした「焼肉ドラゴン」が6年前に証明したように、役者の演技力においては専門教育で先をいく韓国が上。日本の演出家が強く啓発されるゆえんだ。日韓合作は日本の演劇界を豊かにするだろう。