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絵本の読み聞かせ 子どもの「自己肯定感」を伸ばす

2015/1/15

日経DUAL

絵本の読み聞かせが子どもの感性を豊かにし、想像力を育てることは広く知られていますが、他にも様々な効能があることをご存知でしょうか。特に重要なのが、幼児期における絵本の読み聞かせ。この点にいち早く気づいたのが、東京・千代田区や、東京多摩地域に位置する小金井市です。それぞれの取り組みを紹介します。

司書による選書や本棚づくりなどの図書支援はこれまで、主に公立の小中学校で行われてきました。それを、2007年から区内の幼稚園や保育園にまで広げたのは画期的。幼児期から本や図書館に親しめる環境をつくり上げてきたのです。

一方、地元のボランティアによる「地域文庫」を40年以上にわたって続けてきた、東京多摩地域にある小金井市。「本が好きな子を育てる」文化が地域や家庭に根づいています。

子どもの語彙力や知力アップにとどまらない、現場から浮かび上がってきた読み聞かせの意外な効能「自己肯定感」について。日々、絵本の読み聞かせに携わっている方々にお話をうかがいました。

■「毎日10分以上読書をする」子の読解力は高い

昔から「本を読む子は頭がいい」「絵本の読み聞かせをすると賢い子が育つ」と言われてきた。そのことを裏付けるデータや検証はこれまでほとんどなかったが、東京都千代田区立四番町図書館館長の宮崎亜古さんは、文部科学省と国立教育政策研究所が共同で行ったある調査に注目した。

全国の公立小中学校を対象とした「全国学力・学習調査」と家庭環境に関するアンケートである。

「10年くらい前、『世帯収入が高い家庭の子どもほど、学力が高い』というアンケート結果が世間で話題になりました。けれど、私が注目したのは、『毎日10分以上読書をするか』という質問に対して『はい』と答えた子は、総じて読解力の問題の正答率が高かったこと。ああ、やっぱりね、と。私が長年肌で感じていたことが、データとして裏付けられたのはうれしかったですね」

四番町図書館では毎週金曜と日曜に地域のボランティアスタッフや司書による「おはなし会」を実施。乳幼児、未就学児が対象だが、学校帰りの小学生が訪れることもあるという。今年は英語のおはなし会やパパのための読み聞かせ講座も開催した(写真:吉澤咲子)

■親子が楽しんでできる、究極の早期教育

では読解力の高さが意味するものは何か?

「中学生になると、自分の内面と向き合うことが多くなります。それまで本を読む習慣がついている子は、本を通して自ら学び、成長することができる。その芽を育てるのは、やはり幼児期から」と、四番町図書館の宮崎館長(写真:吉澤咲子)

 宮崎さんは「豊かな語彙を使って思考・想像し、話の本質をつかみとる力」だと言う。自ら読書をする子は、必ずといっていいほど幼児期に物語(フィクション)にたくさん触れている。「幼児期はまだ字が読めませんから、親ないしは信頼できる身近な大人に絵本を読んでもらいます。特に昔話を語れるおばあちゃんと同居している場合など、想像力が大いに育ちます」

まず身につくのは、語彙力。「語彙力がつけば、物語の内容を想像するスピードがより速くなり、起承転結を追うだけでなく、頭の中で絵(イメージ)を描き、映画のフィルムのように連続させてどんどん展開させることができます。もっと続きを聞きたい、物語を聞きたいという知的好奇心もかき立てられ、2~3歳の子でも長いお話を集中して聞けるようになるんです。実際、四番町図書館が毎週開催している『おはなし会』では、最初2~3話で飽きていた子が、そのうち1時間くらい座っていられるようになりました。私や親御さんも驚いているんですよ」

これは小学校での学びにおいても、とても大切なこと。授業をじっくり聞く力はもちろん、先生や友達の言わんとすることを想像して把握し、自分の考えを言葉で豊かに表現できるようになる。

「小学校での学力アップにつながるだけでなく、社会生活を築くための基本的なスキルも身につきます。絵本の読み聞かせは親子が楽しんでできる究極の早期教育なんです

そして、何より宮崎さんが強調するのは「自己肯定感」を育む効果だ。

「絵本の中では、奇想天外な出来事が起こりますよね。例えば主人公が危険な目に遭ったときに、超自然的な何かが手を差し伸べてくれて、ピンチを切り抜ける話とか、『三匹のこぶた』のように一番小さくて役に立たないと思われている末っ子が、知恵を働かせて上の子達を助ける話など。子どもたちは主人公に自分を重ねながら成功体験や達成感を味わっています。そういう子は絵本の中でいくつもの人生を生き、幸せになる道をいっぱい見つけられるんです」

その経験は、狭い社会で暮らす子どもの閉塞感を打ち破る力にもなるという。「自分が今いる世界だけが、世界じゃない」という「考えの転換」ができ、「くじけない心」が育つ。それは自己肯定感に他ならない。人生を豊にする上で必要な「人間としての賢さ」を手に入れられるのだ。

■言葉はまず「耳から聞く」のがいい

宮崎さんがセレクトしてくれた幼児期にお勧めの本。『まちんと』(松谷みよ子著)や『えんぴつびな』(長崎源之助著)など戦争がテーマの本も。「戦争の恐ろしさや悲惨さといったメッセージは幼児にも伝わる。言葉だけでなく、絵本が持つ絵の力もあなどれません」(写真:吉澤咲子)

「字が読めるようになったら、自分で本を読めばいい」という意見もあるが、宮崎さんによると、幼児期はとにかく「耳から聞く」のが大切だという。

「読む、話す、書くなど言葉の学習において最も早く発達するのは『聞く力』です。私は『耳育ち』と言っています。言葉はまず耳から覚えるもの。幼児期に美しい日本語をたくさん与えてもらった子は、言葉の発達も早く、表現力も豊かになります

さらに、ある脳科学の実験では、自分で本を読むと、その行為によって前頭葉の言語をつかさどる部分だけが反応したのに対し、耳から聞くと脳幹から反応して脳全体が動いたという。

「人の話を聞いていると、不思議と色々なことに考えを巡らせたり、時には記憶の断片が掘り起こされたりする経験は誰でもお持ちだと思います。実証はできませんが、読むという行為が字を追って情報を仕入れることに専念しがちなのに対し、耳から入ってくる言葉は感性の深い部分を刺激し、想像力をかき立てるのかもしれませんね」

■読み聞かせで終わるのではなく、自然の中に入っていく

では、どんな本をどのくらいの時間、またどんなふうに読み聞かせると効果的なのだろうか。

東京都小金井市で地域文庫活動をしている「こごうちぶんこ」代表・平井崇子さんは、「本の内容にもよりますが、実体験が伴うことで理解が深まり、知識としても確実に身につきます」と話す。

この繰り返しが小学校に入ったときに「なぜ学ぶのか」という目的意識を持って学習に取り組む姿勢につながるという。例えば、絵本の中にホットケーキを焼く場面が出てきたら、一緒に家でホットケーキを焼いてみる。身近な植物なら、自然の中に入っていって、見て触れてみるのもいい。

こごうちぶんこでは、室内だけにとどまらず、お父さんやお母さんと一緒に子どもたちを近くの公園などの豊かな自然へ連れ出すこともしている。

良い絵本とはいわゆる文学作品だけにとどまらない。平井さんは科学に関する絵本の読み聞かせにも積極的に取り組んでいる。特に自然科学の分野で子どもの可能性を伸ばしてやりたいと思っている場合、こうした読み聞かせが将来的、欠かせないものになると考えているためだ。

「読み聞かせるときのコツは?」という質問に対して、40年以上、絵本の読み聞かせに携わってきた小金井市子ども文庫サークル連絡会代表・星川迪子さんはこう答える。

「コツなんていりませんよ。あるとすれば、お母さんやお父さん自身が絵本の世界を楽しむことでしょうか。読み間違えたって構わないし、途中で脱線してもOK。一緒に座って、時折、目と目を合わせながら親もリラックスして読めば、物語は子どもの心にすっと入っていきます」

1日5分のわずかな時間でもいいし、忙しいなら毎日しなくたっていい。「読み聞かせの時間は親と子どもの『共感』の時間です。絵本の世界を一緒に共有することで、心と心が深く結びつく。そこにテクニックや時間の縛りなんて必要ないんです」(星川さん)

こごうちぶんこの皆さん。読み聞かせ時に選ぶのは「人の温かみが感じられる本」。自然科学系なら「世界とつながり、世界の美しさを手に入れ、表現する力を身につけられる本」という。若いボランティアスタッフも育て、本のセレクト眼も受け継がれている

(ライター 鈴木美和)

[日経DUAL2014年12月19日付の掲載記事を基に再構成]

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