有酸素運動は筋肉減らす、筋肉の常識筋肉のウソ・ホント(2)

日経ヘルス

筋肉をつけることの効能はあるけれど、筋トレすれば誰でも筋肉がたくさんつくかといえば、それは間違い。「筋肉」をよく知れば、効果的な体調管理を行えます。2回に渡って筋肉の最新常識をリポート。筋肉に関するあなたの「常識」を最新情報にアップデートしましょう。

有酸素運動は、脂肪も筋肉も減る?

【ホント】
運動はすべて筋肉を減らす。増やせるのは筋トレだけ。

「有酸素運動では、脂肪と一緒に筋肉も減る」(島田さん)。有酸素運動に限らず、運動をすると筋肉を動かすエネルギーとして筋肉のたんぱく質が分解される。これは筋トレも同じだが「強い負荷がかかることで筋細胞が損傷し、修復・強化のためにアミノ酸などの栄養を欲する。有酸素運動ではこのメカニズムが働かない」(島田さん)ので、最終的に筋肉が減ることになる。

インナーマッスルだけを鍛えればいい?

【ウソ】
単独で鍛えるよりアウターマッスルごと全体を鍛えよう。

「もともと、インナーマッスルとは動きの自由度の高い関節を安定させる働きから注目された筋肉のこと」と説明するのは、谷本准教授。肩関節と股関節、脊柱の3カ所の筋肉を指す(図1)。「プロ野球などのピッチャーは肩関節まわりを安定させるインナーマッスルが酷使されているので、軽い負荷を使ったトレーニングで筋肉を“ほぐす”必要がある。そこで“インナーマッスル=重要”の概念が広まったが、本来の役割が理解されないまま“重要”という認識だけが一人歩きしている」(谷本准教授)

インナーマッスルだけ鍛えたいと思う人もいるだろうが、筋肉のメリットを受けるには、筋量を増やすために「大きなアウターマッスルを鍛えたほうが効率がいい」(佐々木講師)。「インナーマッスルは関節を安定させるだけでなく動作させる作用も併せ持つので、通常のトレーニングの中でインナーマッスルも鍛えられる」(谷本准教授)。

腹横筋や大腰筋も体の内側にあり、インナーマッスルと呼ぶ人が多い。腹横筋は腰痛対策に重要な筋肉で、呼吸で整えられる。大腰筋は転倒予防に重要な筋肉で、もも上げで鍛えられる。

図1 [左]臼関節。いわゆる背筋運動(背骨を反らしたりねじったりする動き)で鍛えられる [中]球関節。フルボトム・ナロースタンス・スクワットやブルガリアンスクワットなど(外旋する動き)で鍛えられる [右]球関節。鍛えるには多くの種目を組み合わせる必要がある (イラスト:三弓素青)

部分やせなんてできない?

【ウソかも】
筋肉が分泌するホルモンが、周辺の脂肪細胞の性質を変える。

部分やせは一般的に「できない」とされるが、ここにきて「できる」可能性が出てきた。その主役は、現在続々と発見されている「マイオカイン」と呼ばれる、筋肉が分泌するホルモンだ。

現在確認されているのは「IL-6」や「イリシン」など。「IL-6は脂肪組織に働きかけて脂肪の分解を促進する。イリシンは、余ったエネルギーをため込む『白色脂肪細胞』を、エネルギーを消費し熱を作る『褐色脂肪細胞』へと変化させる」と、筋生理学を専門とする東京大学大学院の石井直方教授。

これらのマイオカインは筋肉から直接分泌される。「筋肉内部の脂肪や筋肉周辺の脂肪などに、局所的に作用するので、部分やせの可能性がある。“よく動かすところには脂肪がつきにくい”ことと関連性があるのでは」(石井教授)

脂肪を減らすには食事制限?

【ホント】
でもリバウンド予防に筋トレもお忘れなく。

筋トレを指導するトレーナーに脂肪を減らして減量する手段を尋ねたところ、意外にも筋トレは薦められず「脂肪を減らすなら食事制限」というのが一致した答えだった。「当たり前だが、摂取カロリーを消費カロリーより減らすことが大切」と話すのは、女性専門に筋トレを指導する岡部友さん。「自分が1日に消費できるカロリーよりも低くなるように摂取カロリーを決め、たんぱく質や良質な脂肪など優先順位の高いものからとる。運動量が少ないなら糖質の優先順位は低い」(岡部さん)。

ただし、食事制限だけではだめ。脂肪とともに筋肉も減るからだ。「筋肉は何もしなくても発熱のためにエネルギーを消費してしまう、ある意味ムダな組織。体は筋肉をつけたくないので、使わなければ減る」と、東京大学大学院の八田秀雄教授は説明する。筋肉が減ればエネルギーが消費されにくく、脂肪がつきやすい体になってしまう。

リバウンドを防いでダイエットを成功させるには、「運動したからといって食べる量が増えれば本末転倒。運動はあくまで代謝を下げないためと認識して」(岡部さん)。

~トレーナーも研究者も「足腰を鍛えられる」と絶賛~
1つだけ筋トレするならスクワットがいい
 今回、多くのトレーナーや研究者が薦めていたのが腰を落として上げる「スクワット」。「お尻ともも裏が弱い人が多いが、そこに効かせられる」(島田さん)と、多くの女性が気になる部位のたるみに効く。実はこうしたたるんでいる部位の筋肉が、歩く・立つといった日常動作を支える筋肉であり、弱ればひざや腰の痛みの一因にもなる。将来のためにもぜひ鍛えておこう。

(日経ヘルス 宇野麻由子)

[日経ヘルス2014年12月号の記事を基に再構成]