日本のエンタは「からまる」「おじ知る」「非突出」
日経エンタテインメント!
ソチ五輪やサッカーW杯のようなお祭りから、集中豪雨や火山噴火まで、例年以上にいろいろなことがあった2014年。その1年はエンタテインメント(エンタ)の世界から見ると、どんな年だったのか。3つのキーワードから読み解き、振り返ってみた。
「からまる女子」 男は不要、女のからみがおもしろい
歴史的大ヒットになった映画『アナと雪の女王』は、ディズニーアニメ初のダブルヒロイン。映画『思い出のマーニー』も、ジブリ初のダブルヒロインとして話題になった。ドラマ平均視聴率1位の『花子とアン』は、田舎から出て来た主人公とお嬢様の対立と友情を描いて、一気に人気が高まった。
また、結婚した女性の恋愛を描いた『昼顔』、順位付けして自分の優位性を示す流行語「マウンティング女子」を広めた『ファーストクラス』など、人気になった映画やドラマには女性同士がときにグリグリ、ときにギラギラと、一歩踏み込んだ関係を扱うものが目立った。
その背景には女性クリエイターの存在がある。『花子とアン』の脚本は中園ミホ、『昼顔』は井上由美子、『ファーストクラス』の第1期は渡辺千穂と、いずれも女性が手がけている。『アナと雪の女王』もディズニー長編アニメ初の女性監督(共同)を起用している(脚本も)。
彼女たちは、男性が気づかない世の中の変化を描き出すことに成功した。いくら待っても白馬に乗った王子様は現れず、男たちはもはや頼りない存在。一見、仲の良さそうに見える同僚は、ときに自分より上か下かの格付けを繰り返す関係。男たちが想像する女性像は、過去のものになりつつある。男性には描けない女性同士の複雑で深い関係性を女性自身が表現し始めている。
「オジ知る系」 昔はそんなにカッコよくなかった
2014年、一気にスターとなったのがテニス界のプリンス、錦織圭だ。全米オープンで次々と強豪を下して決勝に進出。日本人初の準優勝に輝いた。
それと共に「圭のパッシングショットのさえが」とか「あのバックハンドボレーが」と言って解説をする中年男性が急増。スポーツとは無縁そうに見えるおじさんの解説は周囲を驚かせた。実は、50代にとって、テニスは昔慣れ親しんだレジャー。ラケットを抱えて軽井沢や清里に行くのは普通のことだったのだ。
2014年は、中年にとって「普通」のものが人気となった。
例えば、女性ファンが急増しているというプロレス。1970~80年代にかけては、日本テレビはジャイアント馬場率いる全日本プロレスを、テレビ朝日はアントニオ猪木を中心とする新日本プロレスをゴールデンタイムに放送していた。
BABYMETALのブレイクで再評価されるヘビーメタルは、どのクラスにもいたディープ・パープルやジューダス・プリースト、アイアン・メイデンたちを愛するヘビメタマニアによって支えられていた。
また、にわかに人気になった路線バス番組だが、1970年代の自家用車が普及していない時代には、日常的に利用するものだった。
中年にとっては懐かしい復活だが、複雑な思いもある。それは、こうした人気モノは当時、どちらかといえばカッコ悪いと見られていたからだ。テニスこそ初めはユーミンの曲にあるような爽やかなスポーツだったが、一般化するにつれて、おしゃれではなくなった。プロレスやヘビメタはマニアックな趣味で、今で言うオタクが愛するもの。バス通学だって、本当だったらしたくなかった。
だが、デジタル化される前のあの人間味あふれるテイストこそが、デジタル全盛時代には魅力的に映っているようだ。
「非突出型」 前も後ろも、目立つことがリスクになる
ヒーローやヒロインは、群を抜いてカッコ良かったり、かわいかったりするのが当然だった。だが、こうしたプロっぽいカッコ良さは、今の時代には「上から目線」と感じるらしい。最近は、むしろ平均的で突出しない人たちが人気者になる傾向にある。
「1000年に1人の逸材」と有名になった橋本環奈だが、もともとは福岡のアイドルグループ「Rev.from DVL」の端に立つ存在。それが、1枚の写真をネットで紹介されて、一躍全国的な人気になった。女子アナ人気No.1の水ト麻美は、これまでの女子アナ像とは異なる「ポチャかわ」で好感度を高めた。また、人気グループKis-My-Ft2の地味な4人組が別ユニット舞祭組としてデビューし人気者となった。
目立たないポジションからみんなの後押しを受けて、一気に人気者になる人たちが増えている。プロが選ぶ既成の魅力を受け入れるのではなく、共感できる存在を応援して人気者にする。AKB48のような、大人数のアイドルグループが人気を集める今どきらしい現象だ。
突出しない人が共感を呼ぶのには理由がある。『妖怪ウォッチ』の生みの親、レベルファイブの日野晃博社長が「今の子どもは目立つことを恐れます。0点を取るのにも度胸がいる時代」と語るように、現代は前に出て目立っても後ろに下がって目立っても、いじめにあうリスクが存在する。子どもたちは自然と突出を避けるようになっているのだ。
また、ソーシャルメディアの普及で、発言から行動まですべてが見えるようになり、変な目立ち方をすればたちまち非難される危険性が高まっている。
これまで芸能界は目立つことで人気を勝ち取る世界だった。だが、ネットの普及で誰もが評価を発信できる時代になった。むしろ、目立たない存在を見つけて応援して人気者にする、そうしたプロセスこそが人気獲得のカギになりつつある。
(日経エンタテインメント!編集委員 品田英雄)
[日経エンタテインメント! 2015年1月号の記事を基に再構成]
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