がんで「5年生存率は30%」と言われたら
病気にまつわる数字の読み方
国立がん研究センターは2014年9月に、胃がんや肺がんなどの「5年生存率」を検索できる新しいシステムをウェブサイト(https://kapweb.chiba-cancer-registry.org/)で公開しました(図1)。ニュースでも報道されたので、ご存じの方も多いでしょう。
「5年生存率」とは?
がんの5年生存率とは、がんと診断されてから5年間生きている人の割合のことです。5年生存率が30%とは、ある時点でがんと診断された100人のうち30人が5年後も生きており、70人は既に亡くなっているという意味です。がんの種類によっても異なりますが、5年生存率は、おおよそ治癒の目安と考えられています。
同センターのプレスリリース(http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20140919.html)によると、今回公開されたのは、1997~2005年に新たにがんと診断された約30万人分のデータをまとめたものです。この約30万人は、全国がん(成人病)センター協議会に加盟するがん専門診療施設で診断され、入院治療を受けたがん患者です。
5年生存率の値は、集計対象者の年齢や性別の影響を受けますので(例えば、集計対象者に高齢者が多かった場合、がん以外の原因で亡くなる方が多くなるため、単純計算した5年生存率の値は低くなる)、5年相対生存率で示されます。5年相対生存率とは、生存率に影響を与える要素を補正した値のことで、「がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いか」(がん情報サービス「がんに関する用語集」http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/5year_relative_survival_rate.htmlより)を示します。
検索方法には「かんたん」と「くわしい」の2通りがあります。「かんたんデータ画面」では、「部位(胃、大腸、肝、肺、乳、子宮、前立腺の7種類)」「性別(男、女、男女)」「臨床病期(1~4期の4種類)」の3要素を選んで検索します。「くわしいデータ画面」では、患者の年齢や手術の種類といった、よりくわしい条件で絞り込んで検索できます。
「5年生存率」は過去の患者の集計結果
がんと診断された患者にとって、「あとどのくらい生きられるのか」は、その後の人生設計にもかかわる切実な問題です。5年生存率は、その一つの参考情報になると思います。5年生存率の数値を参考に、治療方針について医師と相談することもあるでしょう。
ただ、その数値を受け止める際には、いくつか頭に入れておく方がよいことがあります。まず、今回公開されたのは、1997~2005年にがんと診断された人、つまり今から10年以上も前に診断された患者の情報を集計したものだという点です。当時と今とでは、診断技術も治療技術も違います。研究者側も、「現在は医療の進歩により、この生存率の数字よりさらに治療成績は向上していると考えてください」と述べています。
治療成績の向上と同時に、早期発見の影響もあります。例えば、がん検診でがんが発見(診断)された場合、何らかの症状が出てから発見(診断)された場合に比べて、診断が前倒しされることになりますので、診断されてからの期間は見かけ上長くなります(この現象をリードタイム・バイアスと呼びます)。このようなバイアスがあると、5年生存率の数値は高まります。
データの集計母数に「自分」は含まれていない
また、5年生存率は、大勢の患者のデータを集計した平均的な数値であり、かつ、ほとんどの人にとって、その中に自分自身は含まれていません。5年生存率の数値が高くても低くても、自分自身が5年後に生きているのか死んでいるのかを予測してくれるわけではありません。
さらに言えば、例えば5年生存率が30%だった場合、「70%が亡くなる」とネガティブにとらえるか、「30%が生きている」とポジティブにとらえるかでも、ずいぶん違ってきます。またそもそも、自分が「数値も含めてできるだけ多くを知りたい」タイプなのか、「数値を知るとかえってつらくなる」タイプなのかという問題もあります。
データは重要ですが、数字はあくまでも数字。自分が後者の「つらくなる」タイプだと思うなら、あえて5年生存率を知らずに過ごすというのも、選択肢の一つだと私は思います。
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
著書に『患者のための医療情報収集ガイド』(ちくま新書)、訳書に『病気の「数字」のウソを見抜く:医者に聞くべき10の質問』(日経BP社)など。(撮影:直江竜也)
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