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都市型イオンモール、老舗百貨店を「飲み込む」

2015/1/17

日経トレンディネット

 2014年12月5日、イオンモールが西日本の旗艦店と位置付ける「イオンモール岡山」が、JR岡山駅から徒歩5分の場所にグランドオープンした。実はこのイオンモール岡山は、数あるイオンモールの中でも異色の存在だ。同社がこれまで得意としてきた郊外ではなく、都市中心部の一等地に出店。建物は地下2階、地上8階建てで、郊外の広大な土地に巨大モールを出店してきた従来の流れとは一線を画する。

イオンモール岡山は地上8階建て。ショッピングモールというよりファッションビルのような外観

 中身も既存のイオンモールとは大きく異なる。モールの愛称として東京スカイツリータウンの「ソラマチ」ならぬ「ハレマチ」(岡山は「晴れの国」の異名を持つ)を掲げ、「2013年にオープンしたイオンモール幕張新都心では『モノ消費とコト消費の融合』をテーマにしたが、ここ岡山では文化や情報の発信基地を目指す」(イオンモールの岩本博専務)という。東日本の旗艦店である幕張新都心は郊外型イオンモールの集大成であるのに対し、岡山は新たな挑戦といえるだろう。

 年間の目標来場者数は2000万人。この数値には「遠方からの来場客は含んでいない」というが、山陽新幹線が停車し、山陰や四国方面との乗り換え拠点となっている岡山駅と地下道でつながっていることから、出張や観光で訪れたときに立ち寄るのも容易。実際、県外客を意識したと思われる店舗も多数出店している。

 はたして地元客以外も楽しめるのか。そして「都市型イオンモール」の目指す先は…。広大な店内を歩いてチェックした。

右の幹線道路はJR岡山駅前から岡山市役所へと続く「市役所筋」。道路の奥に山陽新幹線のホームが小さく見える
岡山駅とは地下街で直結している。地下2階部分にも入り口を設置し、雨の日でもぬれずに来店が可能だ

■1階から4階を貫く巨大な吹き抜け空間

 店内に入ってまず印象的なのは、その構造だ。

 建物中心部に1階から4階までの吹き抜け空間があり、それを取り巻くように店舗が並ぶサーキットモールとなっている。吹き抜けの1階部分は600平方メートルあり、2000人が集まれるパブリックスペース。壁面には300インチの巨大スクリーンが設けられている。吹き抜けは上層へ行くに従って広がり、4階部分は1000平方メートルに。吹き抜けに面した部分にはベンチやソファなどを1100席を配置し、どこからでも巨大スクリーンがよく見えるようになっている。

1階から4階までの吹き抜け空間「未来スクエア」
未来スクエアではイベントなどが開催される

各階には未来スクエアを取り囲むようにベンチやソファなどを配置している
本格的な放送機能を備えた「ハレマチスタジオ」。インターネット回線で番組を配信する

 店舗面積を犠牲にしてまで巨大な吹き抜けを作ったのは、情報発信のためだ。未来スクエア1階には商業施設としては全国初となる常設のインターネットテレビスタジオ「ハレマチスタジオ」を設置。ここから店内のイベント、店舗情報、エリアの情報を集めたインターネットテレビ「ハレマチTV」を発信し、館内に約50台設置されたデジタルサイネージのほか、イオンモール岡山のウェブサイトを通じて全国へと配信していく。イオンモール岡山のオンラインショッピングサイト「ハレマチオンライン」もオープン済みで、テナントのイオンモール岡山限定商品などを全国へ販売する仕組みも整えている。

 6階にはさらに本格的なテレビスタジオ「OHKまちなかスタジオ<ミルン>」もある。岡山・香川県域のフジテレビ系列放送局・岡山放送(OHK)の報道・情報番組がここから放送される。しかもこのスタジオ、商業施設の片隅によくあるサテライトスタジオではない。テレビの制作部隊60人全員が、岡山市郊外の本社を引き払ってオフィスごと引っ越してきたのだ。商業施設に入居した地上波テレビ放送局は前例がない。

岡山放送(OHK)のスタジオ「ミルン」。ガラス越しに番組の放送風景も見ることができる

 スタジオは252平方メートル。広いとはいえないが、スタジオの左右に夕方の情報番組「ミルンへカモン! なんしょん?」と夕方の報道番組「OHKスーパーニュース」のセットがそれぞれ置かれていた。商業施設のフロア構成に合わせているため、天井高は3.5メートルとテレビスタジオとしては異例の低さ。従来の照明だと出演者が熱さを感じるため、すべてLED(発光ダイオード)化するなど工夫したという。

 また、館内11カ所に中継用のカメラ端子も設置し、番組内ではモール内のさまざま場所からの中継を織り交ぜる予定。OHKは前述のハレマチスタジオの運営も請け負っており、事実上、イオンモールと一体となって事業を展開していくことになる。放送の大半を東京キー局発の全国ネット番組に依存し、自社制作と言えば情報番組程度という地方局にとっては、新たなビジネスチャンスといえる。

 ショッピングモールとしては珍しい施設としてもう一つ挙げられるのが、「おかやま未来ホール」。600席あるシアター型の客席は電動で収納可能で、映画や演劇から会議までさまざまな用途に使えるホールだ。ハレマチスタジオを通じて館内のデジタルサイネージやネットテレビでの生中継も可能で、文化や情報発信の一端を担う予定だ。

600人収容できる「おかやま未来ホール」。館内のデジタルサイネージへの生中継もできる

■観光客、出張客も楽しめる地元の「味」と「技」

 では、商業施設としての実力はどうか。テナント数は356店、うち岡山県初出店が238店。しかしそれ以上に特徴的なのは岡山県の地元企業が65店出店していることだ。これも、「情報や文化の発信」というコンセプトに沿ったものといえる。

 象徴的なのが、5階に設けられた「ハレマチ特区365」だ。ここは岡山のクリエイターが手掛ける逸品を取りそろえたゾーンで、常時70ほどの地元ブランドが並ぶ。実演販売も行われ、作る工程から体感できる。

 その隣にあるオーダーメードのシューズショップ「my shoes factory-haku89」も、岡山県で4店舗を運営する地元の中山靴店グループの運営。店内の工房で、注文からわずか30分で完成させるという今までになかった業態だ。靴が作られていく様子をガラス越しに見られるのも面白い。

岡山県のクリエーターが集まる「ハレマチ特区」。岡山県はジーンズの産地としても知られ、ファッションアイテムの実演販売も
注文から30分でオーダーメードシューズを作製。流れ作業の様子も見られる

果物の名産地である岡山らしく、さまざまなフレッシュジュースを提供する「マルゴカフェ」

 食の分野でも岡山の有名店が多数出店。3階にデリ、5階にカフェの2業態を出店している「マルゴカフェ」は、東京・恵比寿にも進出済みの人気店だ。

 4階のフードコート「ハレマチキッチン」には、2013年のU-1グランプリで売り上げ1位になった岡山県・倉敷の「ぶっかけうどん ふるいち」、豚肉をウナギのようにかば焼きにした「かばくろ」、地ビール「独歩」や地酒が飲める「クラフトビアショップ独歩」も出店している。6階、7階のレストラン街「ハレマチダイナー」に店を構えた回転寿司店「鮨 いわ栄」は地元の人気店だが、郊外立地だったため地元民以外はなかなか味わうのが難しかった店。新幹線に乗る前に瀬戸内の新鮮な魚を堪能できるので人気を集めそうだ。

4階のフードコート「ハレマチキッチン」では、地元岡山の味を気軽に楽しめる。地ビールのスタンドが出店しているのは、マイカー以外でも訪れることができる駅チカの立地ならでは
6階と7階は「ハレマチダイナー」。デパートや駅ビルのレストラン街のような雰囲気。地元の人気回転ずし「いわ栄」は必食

■雰囲気はまるで百貨店、編集型売り場からデパ地下まで

 ショッピングモールは通路の左右にテナントが独立して並んでいるのが一般的。だが、岡山駅側の通路については幅を17メートルと広めにとり、その中央にも編集型の売り場を設けている。

 例えば、1階はジュエリーやコスメのテナントが並ぶ「イオンモール岡山の顔」(岩本氏)としての役割を担う。こうした売り場構成にしたのは、左右両側から入りやすく、回遊性を高めるためだが、どことなく百貨店の売り場づくりにも通じるものがある。これはイオンの直営売り場にもいえ、一部のフロアは「既存店のような商品ごとの陳列ではなく、トータルコーディネートを提案する売り場構成にした」(イオン岡山店担当者)という。

百貨店のような編集型売り場を配置し、どこからでもテナントに入りやすくしている
イオン直営売り場「イオンスタイル」も従来とは大きく異なる構成。紳士服売り場ではトータルコーディネートを提案
雑貨売り場でもテーマごとの陳列に。ビジネスパーソン向けにオフィスで使える文具を並べたり、女性向けに北欧風の雑貨を集めたりしていた

 さらに、モール内には本物の「デパ地下」もある。1階の「タカシマヤ フードメゾン岡山店」がそれで、「フォション」や「柿安ダイニング」など、百貨店ならではの31ブランドが集まっている。このフードメゾン業態は、すでに新横浜の駅ビル「キュービックプラザ新横浜」、高島屋グループが運営する「流山おおたかの森S・C」(千葉県流山市)にあり、百貨店外への出店は珍しいことではない。しかし、このイオンモールから歩いて2~3分の岡山駅前に既存店「岡山高島屋」があるにもかかわらず出店したのは驚きだ。

手前がタカシマヤ フードメゾンで、奥がイオンの食品売り場。今までになかった組み合わせ
店内はまさに「デパ地下」。イオンの食品売り場とは一線を画する品ぞろえだ

 岡山高島屋の田中良司社長は「当初は既存店とどうすみ分けるのかという議論もあった」と明かす。しかし最終的には「百貨店だからこそお願いできるブランド力の高い取引先に出店してもらい、ベストのものを作った」(田中氏)。そのため、多くのブランドが、実は駅前のデパ地下と重複しているという。

■百貨店も無視できない年間来場客2000万人の威力

 なぜ、百貨店が競合となるはずのイオンモールの懐に飛び込んだのか。

岡山駅前に約40年前から店を構える岡山高島屋

 それは年間2000万人という予想来場客数のパワーだ。この数値は「大都市の百貨店でも上位に食い込むレベル」(岡山高島屋の田中社長)で、岡山県内だけでなく、中四国全域から客を集めると見られている。そのためには「郊外型のショッピングモールとは違うキャラクター作りが必要。そこで力になれると考え、全力投球した」と田中氏は話す。

 フードメゾンでデパートの上質さやブランド力を伝えることで、既存店にも立ち寄ってもらうのが戦略だという。たしかに、イオンモールの売り場構成は百貨店に似るが、服飾の高級ブランドは出店していない。その部分は高島屋と補完関係にあるともいえる。

 商業施設内にホールや催事場を設け、文化や情報の発信基地になる――。この手法は、もともと百貨店の専売特許だった。「ビジネスマンやキャリアウーマンも訪れる駅前立地は、これまでのイオンモールとは違う。あらゆる世代が集まるクロスポイントだからこそ、こういった構成にした」とイオンモールの岩本氏は話す。百貨店のお株を奪い、取り込む。これが成功すれば、全国各地の都市部にもイオンモールが増殖していくかもしれない。

右奥に見えるのがイオンモール岡山。歩いて3分程度しか離れていない

(日経トレンディ編集 佐藤嘉彦)

[日経トレンディネット 2014年12月11日付の記事を基に再構成]

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