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完全な音だけじゃ音楽の感性は育たない

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日経DUAL
妊娠中の「胎教」に始まって、子どもの音楽教育への関心が高まりつつあります。以前は音楽教育といえばもっぱら「楽器の演奏教室」を指していましたが、最近は小さな子どもを受け入れるコンサートや、乳幼児とその親を対象とした演奏会も増加。様々に音楽に触れる機会が増えてきています。そんな子どもと音楽の向き合い方について、現役の音楽家はどう考えているのでしょうか。そこでEテレで10年間にわたり放映された音楽番組『クインテット』などでお馴染みの作曲家、宮川彬良さんにお話を伺いました。宮川さんは新日本フィルハーモニー交響楽団とコラボし、音楽との新しい出会いの場として人気のコンサート・シリーズ「コンチェルタンテ2」をプロデュースしています。夏公演「サマーコンサート」の本番直前にお話を聞きました。

『宇宙戦艦ヤマト』のテーマ曲やザ・ピーナッツの「恋のバカンス」など、作曲家として幅広く活躍した宮川泰さんを父に持ち、自身も作曲家、編曲家として引っ張りだこの宮川彬良さん。さぞや音楽にあふれた家庭で育ったのではと思いきや、きちんと向き合ったのは、自分から「これ、かっこいい」と思える音楽に出会えた小学4、5年のころからだったそうです。それはどんな出会いだったのでしょうか。

音楽を「観る」ようにしながら、何かを感じ取ろう

――宮川さんのお父様は、作曲家として幅広く活躍されました。子どものころから、家に音楽があふれていたのではないですか。

確かに、普通の家庭よりは触れていたかもしれません。ザ・ピーナッツがわが家で歌稽古をしているのを、小さかった僕が邪魔している写真が残っていたりしますから。

でも、父は仕事が忙しくて真夜中に帰ってきたり、旅公演で何日もいなかったりということがしょっちゅうで、音楽が始終家の中に流れていたという記憶はないですね。母に言われてピアノをやってはいたけれど、ピアノの稽古って、譜面を見て、書いてある通りに指を動かすのが基本。目と指の作業なので、楽しくもなんともないなあと思っていました。

それが、小学4年生のときに映画の『ウエスト・サイド物語』を観て"俺はこういう音楽が聴きたかった"と思ってレコードを買ってもらい、レコード針で穴が開くほど聴きました。小学5年でビートルズの映画を観たときには、"俺もポールみたいにピアノを弾けるようになりたい"と、初めてピアノに対してやる気が出ました。レコードを聴きながら指に曲を覚えさせているうち、弾けるようになって。

やっぱり、親に言われていやいややるのではなく、自分からやりたいと思うことで、上達していくものなんですね。

――最近、音楽を聴くことが子どもの発育に良いと言われています。けれども、どういう音楽を聴かせればいいのだろう、クラシックだったら何でもいいのだろうか、と迷っているママ、パパも多いと思います。

まず、"クラシックを"とこだわることが、そもそも違うんじゃないかと思います。

音楽のジャンルというのは、音楽業界の都合で仕分けされている部分が多分にあるんですよ。最近ではもうこれ以上分けられないというほど細分化されてしまっているけれど、本来、音楽って商業主義のマス目の中でつくられる文化ではないですよね。一説によると言語が出来る前から音楽があったとも言われています。"クラシック"にこだわって、古い音をコレクションするような気持ちで聴いても、あまり意味はないんじゃないかな

そもそも、何を音楽とするのか。よく考えてみると、僕らは日常生活の中で無意識のうちに音楽を聴いています。関西弁のアクセントなんてそれ自体音楽のようなものですよね。工事現場にも、歯医者さんにもそれぞれの音がある。これだけ文化がシャッフルされてしまっている現代においては、"初めにバッハを聴いて次に何を聴いて"ということをやるより、日常の中の様々な音を含めて、音楽に耳を傾けたり、音を"観る"ようにしながら、"この音楽、こんなこと語ってるよ""こんな場面が見える""こんなふうにわくわくする"と感じ取るようにしていけたらいいのでは、と思います。

日本に多い"コレクター"、欧州は自由で勝手な"クリエイター"

――宮川さんのコンサートは楽しい、と定評がありますが、どんなことを心がけていらっしゃるのでしょうか。

日本のコンサートが"敷居が高い"と思われがちなのは、日本の音楽ファンに"コレクター"タイプが多いからだと思うんです。Aフィルと比べてBフィルは良かったとか、〇年の演奏は良かったとか、すぐそういう比較をして自慢したがる。

けれどフランスやドイツの音楽ファンは"クリエイター"タイプで、もっと自由ですよ。演奏を聴くと"宇宙の摂理を感じた"とか"人生の縮図を見るようだった"とか、勝手なことを言う。でも、そういうふうに型にはまらず、自分の感性で音楽を感じるのは大切なことだと思うんですよ。

そんなきっかけになるよう、「コンチェルタンテ2」のようなコンサートでは特に、音楽のジャンルの垣根を一度壊して、様々な音楽に触れてもらいながら、"何だか(音楽の)聴き方が分かったかも"と思っていただけるようにしたいと思っています。

これから聴いていただくサマーコンサートではポップス、映画音楽、民族音楽と多彩な曲を選びましたが、クラシックからはベートーベンの「運命」を取り上げ、おせっかいと言われるくらい解説します。学術的な解説ではなく、作曲家である僕にはどんなふうに「運命」が聴こえるのか。深刻そうだからと敬遠する人の多い曲だけど、実はベートーベンはこの曲の中でとても調子のいいことを言っているような気がする。僕にはこういってるように聴こえますよ、というのをお話しします。"そう言われるとそうだな"なんて思いながら、楽しんでいただけたらと思います。

「様々な音楽に触れてもらいながら、"何だか(音楽の)聴き方が分かったかも"と思っていただけるようにしたい」と宮川さんが言うコンサートとはいったいどんなものなのか。百聞は一聴にしかずというわけで、すみだトリフォニーホールで開催された、新日本フィルハーモニー交響楽団のサマーコンサートを聴いてみることにします。

作曲家の言葉をヒントに、想像の翼を広げながら音楽を楽しむ

サマーコンサートは、子どもも含めた幅広い観客に音楽を楽しんでもらいたいという意図で、毎年、新日本フィルが企画している演奏会です。その人気コンサートが今年は宮川彬良さんとタッグを結成。音楽をより身近に楽しめるよう、幅広いナンバーをトークを織り交ぜながら演奏する人気コンサート・シリーズ「コンチェルタンテ2」バージョンとして上演されました。

小学生、中学生の家族連れから新日本フィルのファンらしいご高齢の方まで、様々な客層で埋め尽くされたコンサートホールに、まずはTシャツ姿の楽団員達が登場します。普通のクラシックコンサートではないぞ、と興味がかき立てられたところで、宮川さんが登場。ゆったりとしたテンポで、「見上げてごらん夜の星を」が奏でられます。途中、映画『E.T.』のテーマや「星に願いを」のメロディーが織り交ぜられ、この1曲で喧噪の都会から心地よい異空間に誘われるよう。演奏後、宮川さんがマイクを取り、「単なる懐メロとして演奏するのではなく、小さな星、遠い星、近くの星、それら様々な星が瞬いている情景を表現したかった」とコンセプトを説明します。聴き手の中で、今聴いたばかりの曲の、変化に富むアレンジが反すうされる構成です。

エリック・サティのピアノ曲をオーケストラで肉付けした「ジュ・トゥ・ヴー」に続いて演奏されたのは、宮川さんいわく「この曲がオーケストラで聴けるのはここだけじゃないか」という「メリー・ジェーン」(つのだ☆ひろ!)。次の「シェルブールの雨傘」は宮川さんによると"半音間違いの連続"の曲。ピアノで再現しながら、次はここに来るだろうという音から半音ずれた音が連続し、それによって結ばれない男女の切なさを強調しているのだと解説してくれます。「そういうズレが一切ないのが、この曲です」と華やかなアンデス民謡「花祭り」が続き、最後は映画『大脱走』のテーマで楽しく一幕が終了。エリック・サティにつのだ☆ひろ、映画音楽に民謡曲。宮川さんの言う通り、音楽のジャンルの垣根を壊した、あっという間の45分でした。

2幕はお待ちかねのベートーベン交響曲第5番「運命」第1楽章より。ピアノに向かいながら、宮川さんのトークがさく裂します。

爆笑 納得の「運命」解説

「高校の音楽鑑賞の時間に、この曲がかかったとき、クラスで爆笑が起こったんです。ベートーベンの真剣さが、高校生の僕らにはかなり面白く聞こえてしまって。それからこの曲が何を言っているのか気づくまで、5年くらいかかりました。自分が音楽を勉強するようになって、実は人間や自然、宇宙の秩序を語った曲なのだと気づいたのです」

(初めの"じゃじゃじゃじゃ~ん"をピアノで弾きながら)「このモチーフは、運命がやってきて扉を3回ノックしている。自分ではそれをどうすることもできないということを、次の音を下げることで表現しているんです。♪下がるぞ~♪ですね(笑)。♪成績下がるぞ~、給料下がるぞ~♪と続く」

「それが、第2テーマになると、主人公は新たな発見をする。♪よく見てみ~ろ、上がるから下がる、上がるも下がるも同じだ、ならば下がろう楽しく下がりましょ、怖くない~♪と、音色も楽しく終わるんです。ベートーベンのそんな哲学が込められているのですね」

そんな歌詞付き演奏で、子ども達の笑いも誘いながら楽しく解説した後、「一つ一つの音の上がり下がりに一喜一憂する時代があったということを、私達ももう一度確かめてみたいと思います」と、「運命」の演奏スタート。なるほど、そういう意味だったのかと、先ほど宮川さんの付けた歌詞を思い出しながらメロディーを追います。さっきまで大笑いしていた子ども達も一転、集中して聴き込んでいる様子。素晴らしく引き込まれるひとときです。

続くビートルズの「ヘイ・ジュード」では、ポール・マッカートニーが、離婚問題で揉めていたジョン・レノンの息子を励ますために作ったと言われていることから父・宮川泰さんとの親子エピソードを披露。そして父の曲である「宇宙戦艦ヤマト」を演奏しました。アンコールでは『クインテット』のテーマも披露されました。

最後に「お客様を自然の中にお戻しするため、いつもコンチェルタンテ2で演奏している」という「風のオリヴァストロ」を演奏し、北海道を気球で旅しているかのような心地よい音世界を再現したところで、すべてのプログラムが終了。帰途につく観客達は誰もが朗らかな表情で、あちこちで「楽しかったね」「〇〇の曲が良かった~」と口々に感想を言い合う家族連れの姿が印象的でした。宮川さんのサービス精神が全開し、音楽が分かり易く、楽しく、刺激的に紹介される。

音楽の垣根を取り払い、従来とは違った音楽の楽しみ方を観客に提供する宮川さんに、改めて「ライブで聴く」意味について聞いてみます。

演奏者の"失敗"も含め、その場をまるごと体験するのがライブの醍醐味

――最近はダウンロードした音楽で満足する人も多いようですが、音楽を「ライブで聴く」ことの良さは何でしょうか。

録音された音楽は、録音時にミスをしたとしても、編集でそれがうまく修正されてしまうことが多いんです。そういう"完全"な音だけを聴いていても、聴く側のセンサーは磨けないんじゃないかな。ライブだと、色々なことが起こる。もちろん指揮も間違えるし、キズがあっても感動的な演奏になることもある。それが人間です。"ああ、この人達も人間なんだ"と思える。それでいい。ライブではいろんな出来事があるけれど、それらをひっくるめて"丸ごと"体験してこそ、「音楽鑑賞」なのではないかと思います。

インターネットやスマホ、ゲームで育ち、ハイの周波数とローの周波数をカットした音に慣れた、いわばブロイラーのような状態で育った今の若い人達は、僕には"この状況で育った人間が大人になったとき、どれだけの想像力を獲得できるか"という生体実験をやらされているように見えます。今から10年、20年経って"体にはどこにも異常はないが、うまく人とコミュニケーションが取れない"ような大人に育ったとしたら、その原因は明らかですね。

よく、電車内で子ども達に"静かになるから"とゲーム機を渡して、自分もスマホをいじっている親御さんを見かけるけれど、手抜きしてるなあ、と感じます。僕は3人の子ども達が小さかったころ、カルタとか、おもちゃを手作りしましたよ、子どもに受けようとして。自分が楽しんでいたんですけれどね。音楽にしても、お母さんの子守歌を聴かせて、キーボードではなくピアノでいたずらをさせる。そんななかで、何かが育まれていくかもしれませんよ。

(ライター 松島まり乃)

[日経DUAL2014年10月10日付けの掲載記事を基に再構成]

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