メロンパンの皮、ギョーザの中身…そこだけどうぞ!
メロンパンやどら焼きの皮、ギョーザの中身……。心の中で食べ物の「大好きな部分だけを食べたい」と思ったことはないだろうか。最近、そんなひそかなニーズに応えて、食べたい部分だけを抜き出した「好きだけ」食品が続々登場している。好きだけ食品の広がりを追った。
「メロンパンは皮の部分がメーンの『具』だから、ここだけ食べられるのは好き。しっとりしていておいしい」。東京・新宿の大学2年、浜地優花さん(20)の周りでは、山崎製パンの「メロンパンの皮焼いちゃいました。」(76円)が話題になっている。自身も、ツイッターなどで評判になっているのを知って食べてみた。
友人たちからは「皮だけだとアイスのフタだけなめるようなもの」という意見もあったが、「自分の食べたいところだけ食べられるのはアリ」との声が多い。浜地さんも「グラタンだってチーズの皮部分をいっぱい食べてみたい。こういう皮だけの商品をシリーズ化してほしい」と肯定派だ。
この商品、山崎製パンがメロンパン好きな工場勤務の女性の意見を元に開発し、10月から関西で発売。インターネットやSNS(交流サイト)上で「夢のような商品」と話題になり、同月末から全国でも販売を開始した。11月だけで約1300万個を売り上げ、今も品薄状態が続く。
「皮だけスイーツ」はほかにもある。横浜文明堂(横浜市)の喫茶店「文明堂茶館ル・カフェ」では、焼きたてのどら焼きの皮に、あんを挟まず食べる「パステル」(1枚180円)が好評だ。甘すぎず、ふんわりとした食感は和風のパンケーキのようで、付け合わせのクリームがよく合う。
同社によると、あんが苦手な人向けに以前から販売されていたが、最近は若者を中心に売り上げが伸びている。デパートなどの店頭ではパッケージに包んで販売し、すぐに売り切れるほどの人気だ。
昔から、天ぷらそばの「そば」を抜いた「天抜き」は、そば店の「隠れメニュー」として食通の間で人気だった。インターネットの掲示板には、菓子だけでなく「ケンタッキーフライドチキンの鳥の皮」「カップヌードルの肉」など、総菜の好きな部分だけを食べたがる人の書き込みも少なくない。
今年発売された「ご飯にかけるギョーザ」(税抜き420円)は、ギョーザの「中身」だけを酢じょうゆで味付けした味わいの「食べられる調味料」だ。肉を使わず、おからやにんにくなどでギョーザ味を再現。販売元のユーユーワールド(宇都宮市)によると、10月だけで40万本に達した。
東京・小平の自営業、渡辺勇也さん(37)は自宅近くの生協店舗で購入したところ、「妻とご飯にかけて食べたら2、3日でなくなった」とはまった。「ギョーザの味そのものだが、中身だけだと皮付きとは違うおいしさがある」(渡辺さん)
定番商品から「肝心なもの」を逆に抜いてしまった変わり種も。山芳製菓は11月、「わさび抜き!?わさビーフ」(実勢価格120円)を発売した。同社がツイッターでエープリルフールの「ウソネタ」として出したものが「おもしろそう」「食べてみたい」とネット上で話題になり、商品化した。
ワサビの辛みは全くないが、「ビーフ」部分の風味はより濃厚。同社マーケティング部の加藤武史さんは「スナック菓子は味付けを増やす『足し算』の商品が多い。こういった『引き算』商品が人気になったのは驚きだった」と振り返る。
好きだけ食品の流行について、食文化史研究家の永山久夫さんは「『鮭(さけ)の皮を一反』、つまり皮だけたくさん食べたいという表現があるように、一部だけを飽きるほど食べたがる願望は日本に昔からあった」と指摘する。特に、江戸時代後期には将軍徳川家慶が「芽ショウガ」ばかり非常に好んだという記録があり、同様のブームが起きていたという。
江戸後期は江戸前すしや丼物など今に通じる食文化が生まれた時代でもある。現代も当時と同じく社会や文化が成熟した時代。好きだけ食品の登場が新たな食文化が誕生するきっかけになるかもしれない。(服部良祐)
[日経MJ2014年12月12日掲載]
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