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1グラム5円 銀座に出店、激安神戸牛レストラン

2015/1/10

日経トレンディネット

「匠苑にくいち」は玩具専門店「博品館TOY PARK銀座本店」がある銀座博品館ビルの5階。銀座駅よりも新橋駅のほうが近い。巨大な肉の写真が目を引く

肉ブームが過熱するなか、神戸牛が1グラム5円で食べられる「日本一安い」神戸牛レストランが登場。2014年11月29日、銀座にオープンした「匠苑にくいち」だ。

1グラム5円といえば、2013年11月に1号店をオープンした「いきなり!ステーキ」(ペッパーフードサービス)がある。系列店が1グラム10円で出している牛肉を半額の1グラム5円で提供して人気を呼び、2014年末には30店舗まで出店数を伸ばしている。

ただ、いきなりステーキで使われているのは、オーストラリア産の牛肉。一方、匠苑にくいちはブランド牛の代名詞である「神戸牛」をそれと同じ価格で提供しようというのだ。デパ地下ですき焼き用の神戸牛を買おうとすれば、500グラムで1万円前後が一般的。つまり、1グラム20円となる。飲食店ならそれに賃料や人件費などが加算されるはずなのに、なぜ市販の神戸牛の4分の1の価格で提供できるのか…。

■肉を頼む前に1500円、気になる神戸牛のお味は…

これだけ低価格で提供するとなると内装にお金をかけられないだろうから、さぞかし質素な店だろうと思いきや、匠苑にくいちのロケーションは、新橋駅から徒歩2~3分の銀座博品館ビルの5階。中は広々として、大きな窓からは銀座~新橋の夜景が眺められる(ビル群だが)。個室も完備しており、謎は深まるばかりだ。

席数は102席。テーブル席からは銀座~新橋のビル群が眺められる
さまざまなタイプの個室が用意されている。個室使用料は1人500円(小学生未満は無料)

気になるのは、なんといっても神戸牛だろう。まずは100グラム程度、500円で肉の味を見てみようという腹づもりで、席につく。ワンドリンク制ということなので、生ビールを注文。ファーストドリンクは一律500円だという。その後、「しゃぶしゃぶ」か「すきやき」を選択。すき焼きを頼むと、割り下を張った鍋、追加の割り下、だしが用意される。

この「鍋セット」が500円。さらにテーブルチャージが500円かかるため、肉も野菜も注文していないうちに、早くも1500円となってしまった。「日本一安い神戸牛を食べよう」と意気込んで来ただけに、なんだか釈然としない…。

すき焼きは鍋に割り下を入れた状態で運ばれてくるが、好みで割り下とだしを加えて味を調節できる。牛脂で肉を焼いてから煮込む関西風を希望すれば、鍋を替えて牛脂をつけてくれる
ついに神戸牛を鍋の中に投入

神戸牛はブリスケ(肩バラ肉)、肩ロース、リブロース、サーロインから選べる。また、気に入った肉があって、最後にもう1枚だけ食べたいというときに、注文に対応できるよう準備中だという。今回は同店いち押しの神戸牛ブリスケ(1グラム5円)100グラムと鍋用の野菜セット(500円)を注文。

まず肉を食べてみて驚いたのが、赤身肉の旨みの強さと脂の軽さ。筆者は年のせいか、すき焼きの霜降り肉がしつこく感じるようになり、そう多くは食べられなくなっていた。だがこの肉は軟らかくて旨みが強いわりに脂がしつこくなく、スルスルと食べられる。

聞けば、ブリスケは肩バラ肉の中でもより腕に近い部分で、赤身肉の旨みが強いという。また脂の融点が高いので、軽く感じられるとのこと。ステーキにするとやや固くなる場合があるとのことだが、薄く切るすき焼きやしゃぶしゃぶには最適の部位だそうだ。

肉が桜色になるくらいが食べごろだという。いつまでも眺めていたいと思うほど美しく見えるのは気のせいか

■この店はレストランではなく「卸市場」

冷静に考えてみると、鍋用の野菜セット500円、神戸牛200グラムで合計1000円を頼んだとしても、最初のセット料金と合わせて3000円(ディナータイムにはサービス料5%が加算されるので3150円)。この価格でドリンクが付き、神戸牛が腹いっぱい食べられると考えると、確かに激安といえる。

同店を運営するJTC商事(東京都中央区)は肉卸業がメーンで、スーパーなどにも神戸牛を卸しているが、同店ではスーパーに卸しているのとほぼ同じ金額で提供しているという。なぜ銀座というロケーション、この店構えでありながら、これほどの低価格で神戸牛を提供できるのだろうか。

鐘(しょう)旭宏社長にその理由を聞くと、「この店はレストランじゃないんです」という驚きの答えが返ってきた。つまり同店は肉の卸(おろし)市場であり、客はそこで神戸牛を選んで買い、多少の場所代と肉の加工代を支払い、自分で調理して食べている、というイメージなのそうだ。匠苑にくいちの「いち」は、日本一安い神戸牛の「一」であり、同時に市場の「市」も表しているという。

同社が神戸牛を提供する飲食業に乗り出したのは3年前。「おいしい神戸牛を多くの人が思いっきり食べられる店を作りたい」と考えた背景には、経済的に苦しかった留学生時代の鐘社長の、神戸牛に対する強いあこがれがあった。「この店は神戸牛をどこまで安く提供できるか、どれだけ多くの人に食べてもらえるかというチャレンジ」(鐘社長)だそうだ。

これが市場のコンテストで1位となった神戸牛。通常のブリスケがそもそもおいしすぎて、筆者には差が分からなかった…

■102席に対してスタッフ6人

1400円のワインはすっきりと軽く飲みやすかった。取材時には最初の1杯を注いでくれたが、満席になったらおそらく、手酌になるだろう…

だが、依然として疑問は残る。飲食店という業態である限り、調理やサービスのための人件費がかかる。スーパーに卸しているのと同じ価格で提供しているのが事実なら、人件費の分だけ赤字ということになるが…。

これほど激安でも赤字にならない理由は、各テーブルの上に置かれているiPadにあった。102席に対して、オープン時のスタッフは6人(調理2人、サービス2人、そのほか2人)。少ないスタッフがテーブルまでいちいち行かなくて済むように、注文は全て各テーブルのiPadで受ける。メニューをしゃぶしゃぶとすきやきに絞ったのも、いずれも客が自分で火を入れるメニューだから。

お酒ではボトルワインが1400円からとボトルを意識的に安くしているが、これも人件費をかけないための工夫のひとつ。ボトルで頼んでもらうことで、お酒を運ぶ手間が減るというわけだ。確かに102席に対してサービススタッフ2人と聞くと、お酒のおかわり程度で何度も来てもらうのが申し訳ない気持ちになる。また、お客が混んでくると運ぶのにも時間がかかるだろうから、ボトルで頼んでおくのが得策かもしれない。

各テーブルには注文するためのiPadが置かれている。やや使いづらいが、PCに素人の店長がオープンに間に合わせるために3日間でシステムを作ったと聞き、「ならしかたない」という気持ちになった

ぎりぎりの少人数なので、このようにあらゆる面でスタッフの手がかからないように工夫しているわけだ。とはいえ、満席になったらこの人数で対応しきれるのか、こちらが心配になる。しかし中国出身の鐘社長は「海外では200席にスタッフ数人という店はざら」と平気な表情。至れり尽くせりのフルサービスが当たり前の日本の飲食店と違い、サービスは最低限で価格が安い店が支持されているという。

ただユーザーとして不安なのは、メニューがiPad上にしかないこと。使い方が分からない客が次々に店員を呼んだりすると、ただでさえ人数が少ない店員が操作方法の説明にかかりっきりになってしまいそうだ。

iPadの最終画面。「お水をお持ちします」「おしぼりをお持ちします」などの無料サービスが書かれている

また、店側が「レストランではない」という認識だったとしても、この堂々たる店構えを見れば、多くの人は高級肉料理店というイメージで入るだろう。店側の「場所だけ提供している」という意図と店内のインテリアにはかなりの隔たりがあり、「最低価格のための最小限のサービス」が理解されづらいのではないか。鐘社長もその点はまだ迷いがあるようで、「お客さまの要求をどこまで受け入れることが可能か、価格とのせめぎ合いになるだろう」と打ち明ける。

食べ終わってiPadの注文画面を見ていたら、最終ページが無料コーナーで「灰皿をお持ちします」「空いた器やグラスなどをおさげします」などの項目があった。この項目をタッチすれば、スタッフが来てやってくれるということなのだろう。ただ102席が満杯になったとき、2人のスタッフがどれだけ対応できるのかは、店側でも予測不可。オープン後の様子を見て、必要な数のスタッフを見極めたいという。

(ライター 桑原恵美子)

[日経トレンディネット 2014年12月4日付の記事を基に再構成]

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