家族の介護で働けないときに、もらえるお金あり
もう会社を辞めるしかない
仕事中に、留実さんの携帯電話が鳴り響きました。業務中の携帯電話使用は禁じられているので、マナーモードに切り替えようとしたところ、留守番電話が何件も入っているではありませんか。
何か緊急事態があったのではないかと、留実さんが電話に出ると、父親が倒れて入院した、という姉からの電話でした。
とりあえず事情を上司に説明し、実家のある長野へ帰ることにした留実さん。
病院へ行くと、看護師さんから父親が脳梗塞で緊急搬送されたこと、幸いにも早期の治療が受けられ、大きな後遺症は残らないだろうということを教えてもらいました。ただ、2カ月程度は入院が必要ということ。
その後、神奈川に暮らす姉の登紀子さんもやってきました。留実さんは、3年前に母親を亡くし、別々に暮らす父親と姉の3人家族。来月に出産予定の登紀子さんは、身重の体でとても父親を介護することができません。
入院時の介護とその後のリハビリなどを考えると、東京に暮らす留実さんが仕事を休んで対応するほかありませんでした。
ただ、2カ月以上の長期となると、会社が何というか…。とても年次有給休暇でカバーできる日数ではありません。深夜残業もあるような多忙な職場で、とても休みを欲しいとは言いだしにくい状況でした。
留実さんからの相談を受けたのは、「もう会社を辞めるしかない」と思い詰めているときでした。こうしたときに活用したいのが「介護休業」です。
介護休業とは?
介護休業とは、要介護状態にある家族を介護するために、93日を上限として休業することができる制度です(育児・介護休業法第2条2項)。対象となる家族は、配偶者(事実婚関係の者を含む)、父母および子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫です。留実さんの場合、実の父親ですから対象となる家族に含まれますね。
また、要介護状態とは、「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたって常時介護を必要とする状態」をいいます。
介護休業の期間は、同じ対象家族については通算して93日まで、要介護状態が生じるたびに1回ずつ、複数回に分けて介護休業を取得できます。平成16年の改正前までは、同一家族について連続3ヵ月間を限度として1回限りしか認められていませんでした。
仮に、こうした制度が会社にない場合でも、事業主は要件を満たした労働者から介護休業の申出を受けたら、それを拒否したり、申出や取得を理由に労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをしたりすることは禁止されています(同法第12条1項、同法第16条)。
休業の間、給与をもらえるかどうかは、会社の制度次第。もし、給与が受けられない場合でも、心配は要りません。雇用保険の一般被保険者で一定の要件を満たせば、「介護休業給付」を請求することができます。
介護休業でもらえるお金
家族を介護するために休業をした場合、介護休業開始日前2年間に、原則として賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月以上あれば、「介護休業給付金」の支給対象となります(その他の支給要件あり)。
介護休業給付金としてもらえる額は、
(※介護休業開始前6ヵ月の給与を180で除した額)
です。給与が28万円の留実さんの場合、2カ月間介護休業で仕事を休んだ場合、約22万4000円が「介護休業給付金」としてもらえる額となります。
いざというときに仕事を休むことができ、さらに会社を管轄するハローワークに申請をすれば、休業中の生活保障として給付金をもらうことがでます。こうした申請については、会社に相談してサポートしてもらいましょう。
介護というと、まだ先の話のように感じられるかもしれませんが、身内の突然の病気やケガで必要となる場面は、いつ誰におきても不思議ではありません。
会社によっては、介護休業が1年間認められるなど、法定を上回る休業期間を取得できる場合もあるでしょう。ただし、介護休業給付金の支給対象となるのは、家族の同一要介護につき1回の介護休業期間で介護休業開始日から最長3ヵ月間に限られます。
「介護休暇」との違い
「介護休業」と似ているもので「介護休暇」があります。介護休暇をひと言でいうと、対象家族を介護するための短期の休暇です。
たとえば、介護を必要とする家族の通院の付添いや、介護サービスの提供を受けるための手続きを代行するなど、介護だけでなく、その他必要な世話をするために休むことも含まれています。
この介護休暇は、労働基準法で定める年次有給休暇とは、別に与えられる必要があります。具体的には、要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行う労働者が申し出た場合、対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、1日単位で取得できるものとなっています(育児・介護休業法第16条の5)。こうした休暇をうまく活用していきましょう。
父親の介護で、仕事を辞めようかと思い悩んでいた留実さん。会社に相談したところ、介護休業を取ることを快く認めてもらいました。
さらに、介護休業給付金をもらいながら大変な時期を乗り越え、今では無事に職場復帰をすることができました。仕事を続けるかどうかなど、人生において重要な決断をするときは慎重に、また信頼できる人や専門家に相談してみることでヒントが得られるかもしれません。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2014年9月2日付記事を基に再構成]
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