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東京都庭園美術館リニューアルオープン展 名建築生かした展示、体内の感覚を開く

2014/12/12

 東京・目黒の東京都庭園美術館は、約3年の改修のための閉館期間を終え、このほどリニューアルオープンした。記念展として開催されているのが、「アーキテクツ/1933/Shirokane アール・デコ建築をみる」展と「内藤礼 信の感情」展(会期はともに12月25日まで)。二つの展覧会は会場が厳密に分かれているわけではなく、美術家、内藤礼(1961年生まれ)の作品は改築された新館のギャラリー1と改修された本館の両方に配されている。

 1933年に建った旧朝香宮邸を美術館に転用した本館は、20世紀前半フランスのアール・デコ様式を日本で取り入れた建築の代表的な例として知られる。改修に3年をかけた同館は、まるで建築当初の状態に戻ったかのごとく、磨き上げたような美しさを放っている。幾何学模様の床、随所に見られるアーチのしつらえ、ガラス作家、ルネ・ラリックのレリーフをはじめとする室内装飾、部屋ごとにデザインが異なる照明器具…。以前から内外装が高く評価されていた同館だが、装飾のそれぞれが決して華美に過ぎず、創建当初から心地よい調和を実現していたであろうことが、改めて印象づけられた。

 それははたして彫刻なのか……高さがわずか5~6センチほどの人型の像を本館の10カ所に置いた内藤礼の展示には、そんな問いを投げかけたくなる。少なくとも、従来の堅牢(けんろう)なイメージの彫刻とは違う。作品名は「ひと」。軽い木材として知られるバルサ材でできている。仮に手で持つことができたとしても、ほとんど重さを感じないだろう。少し強い風が吹けば、飛ばされてしまいそうなはかなさを秘めている。一方、裸体とも着衣ともつかない簡略な造形ながらも頭部には2つの目があり、小さくても人間の形をした像であることは、近くで見るとはっきり分かる。

 では、木材で人の形を作っているにもかかわらず、この像が彫刻だと言い切るのに抵抗を感じるのはなぜか。著しく小さいうえ館内に散在しているので、宝探しのようなつもりで巡らないと見過ごしてしまう像も多い。見つけて鑑賞を始めると、像だけに目を凝らしているわけではない自分に気づく。像を周囲の空間と一緒に捉えているのだ。1つの像が館内を巡り歩いているかのように感じる人や、小さな像に自分を同化させる人もいるだろう。内藤の「ひと」を彫刻と言い切ることができない理由は、そんなところにありそうだ。

 1983年に開館したこの美術館は、美術史的、建築史的に価値のある文化財建築をただ保存公開するだけでなく、本来の役割とは別の用途で再活用してきた先駆的な例だ。住居という建築時の役割に戻してしまえば、普通内部は公開されない。美術館にすることで、人々が建物の美を享受する機会は著しく増えた。

 リニューアルオープンの記念展で、ただ建物を公開するだけでなく、現代美術家の作品を忍び込ませるように展示したことには、こうした「美術館」としての心意気が見える。内藤礼は、瀬戸内海に浮かぶ香川県の豊島で、建物をまるごと表現の場とする豊島美術館を、2010年に開館した(建築は西沢立衛が手がけた)。そこでは、床からほんの少しずつ湧き出てとてもゆっくりと、しかし転がる粒のように流れる水を眺めることで、来場者の心に静謐(せいひつ)をもたらす展示を実現している。では内藤が、すでに完成した美を持つ文化財建築と向き合うとどうなるのか。その答えが「ひと」だった。

 本館の「ひと」のいくつかは、1933年の建築当初からある鏡の前に、鏡のほうに目を向けるように置かれている。汚れた壁紙やカーペットは取り替えられても、鏡は交換されることがなく現在にいたっているという。つまり、鏡は約80年間、この建物を途切れることなく眺め続けてきた存在なのである。とても小さな「ひと」は、その鏡を通して建物を見ていることになる。来場者の目もまた、自然と鏡を通して建物と接することになる。

 新館のギャラリー1は、以前のこの美術館にはなかったホワイトキューブ型のスペースだ。ここでは、「color beginning」と題された絵画のシリーズが壁を囲むように展示されている。歴史的建造物の美を享受する感覚をさらに研ぎ澄ます力を持つ本館の展示とは対照的に、ここでは来場者は内藤礼の世界を満身で受け止めることになる。「color beginning」はどれも、何も塗られていない真っ白なカンバスに見えるのだが、内藤は知覚できるかできないかというぎりぎりの色彩を画面に施している。この空間に長くいると、ほんのりと色が見えてくる。本館の「ひと」と通じているのは、鑑賞者が眠らせている感覚を体の中から呼び覚ますことだ。本館、新館とも、時間をかけてゆっくり展示になじんでいったほうが、いい体験ができるだろう。

(多摩美術大学教授 小川敦生)

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