「Xmas」は間違いか Xに秘められた「日本的発想」

師走に入り、ちまたでもクリスマスムードが高まってきた。看板やポスターなど既に街中のあちこちで「Xmas」という文字が躍り始めている。そんな光景を見ていたら、一つの疑問がわいてきた。クリスマスは本来、英語の表記では「Christmas」のはずなのに、なぜ「Xmas」となるのか。

ルーツはギリシャ語

日本では「Xmas」と書かれた看板やポスターなどが多く見られる(東京・吉祥寺)

「Christmas」の「Christ」の部分が「X」になる理由について青山学院大学で宗教部長を務める伊藤悟教授に聞くと、「Xという文字がギリシャ語に由来しているため」と説明してくれた。

ChristmasのChristはキリスト、masは礼拝を意味する。一方、ギリシャ語ではキリストを「ΧΡΙΣΤΟΣ」と表記する。Xは「カイ」や「キー」と読み、アルファベットのX(エックス)の元になった文字でもある。英語のChristの部分をギリシャ語の「ΧΡΙΣΤΟΣ」の頭文字に置き換えたものが「Xmas」という表記というわけだ。

伊藤教授によると、そもそもクリスマスという言葉自体がギリシャ語に由来している。「ギリシャ語のΧΡΙΣΤΟΣをアルファベット表記にしたものがChristmasとなったのです」

古代ギリシャ語は、紀元前4世紀後半から紀元6世紀の中盤まで欧州からアジアにかけた地域で共通語として使われた。このため、その時期に成立した新約聖書は大部分がギリシャ語で書かれている。クリスマスという言葉がギリシャ語に由来するのは、こうした歴史的な影響があるためだとみられる。

欧米では敬遠

ただ欧米ではXmasという表記の使われ方が変わってきているという。

「Xmasという表記は18、19世紀まではよく使われていましたが、最近はあまり使われなくなっています」と話すのは、ミッション系の金城学院大学教授で通訳論が専門の水野真木子氏。

20世紀以前、書き言葉を使うことができた人々はXmasのXがギリシャ語のキリストを意味する文字だということを知っていた。しかし、識字率が向上し一般市民にも読み書きが普及すると、Xは単なる英語のアルファベットの一つと受け止められ、本来Xに込められていた宗教的な意味合いが薄れていくことに。Xmasは次第に商業主義的な印象が強まって敬遠されるようになり、公式な場所では使われなくなったというのだ。

実際、クリスチャン向けの正しい語彙・文法の解説書「The Christian Writer's Manual of Style」は、「広告以外ではXmasは使うべきでない」と記述している。また米国の有力紙でも「Xmas(の表記)は避けるようにしているところがあるようだ」(水野教授)。

「文字数が少ない」という利点

日本の場合はどうか。日本では、Xmasという表記をファッションビルのポスターや商品の店頭販促(POP)など様々な場所で見かける。

その理由について、1970年代からコピーライターを務め、商品ネーミングの第一人者でもあるロックスカンパニーの岩永嘉弘代表はこう明かす。「XmasはChristmasと違って文字数が少ない。全体で長い文言を盛り込む必要がある広告などでは使い勝手が良いんです」

例えば「親子みんなで行こう! Christmas Sale」という宣伝文句。見た目が長すぎるこの文言を「親子みんなで行こう! Xmas Sale」などと短縮してみる。すると、確かにスッと頭に入ってきて印象に残りやすくなる気がする。さらに「サイズの小さい商品に『クリスマス』の文字を記載する場合もXmasとするほうが都合がいい」(岩永氏)というわけだ。

「デザインの観点」で判断

欧米に比べキリスト教徒が少ない日本では、宗教にまつわる行事がひとたび「輸入」されると、娯楽的なイベントの色合いが濃くなるという傾向がある。宗教的な理由での表記の厳格さはあまり求められないからだろう。実際、クリスマスセールを展開するある大手百貨店では「Christmas」と「Xmas」の使い分けは特にしておらず、「そのときどきによってデザインの観点から判断している」という。

百貨店のなかには「宗教上の表記はきちんとしなければならないということで、Xmasではなく、Christmasを使っている」(三越伊勢丹ホールディングスのコーポレートコミュニケーション担当)という例もあるが、あくまで少数派。大半の百貨店や商業施設はXmasという表記をこだわりなく使っている。

宗教上の制約にとらわれずにクリスマスの表記を自在に使いわける日本人。それは、ある意味で日本人の発想の柔軟性を表していると言えるのかもしれない。(藤村絢子)