2014/12/9

おとなの数学

マンホールのふたはなぜ落ちないのか(東京都千代田区のマンホール)

最後は、かつてマイクロソフトの入社試験で、「マンホールの蓋はなぜ丸いのか」という問題が出題されたことに関連する話題である。答えは「蓋をどのように動かしても下に落ちないから」である。説明は以下の通りだ。

円形のマンホールを置く地面の穴の直径をa cm、マンホールの直径をb cmとする。マンホールをその穴の上に重ねて置くことを考えると、bはaより大きくなくてはならない。一方、もしマンホールを立体的にいろいろ動かして、その穴の部分を通過させられることができるならば、マンホールの直径が穴を通過する瞬間があるはずだ。それは、マンホールの直径bは穴の直径a以下であることを意味する。これは、前提の「bはaより大きい」と矛盾している。したがって、マンホールを立体的にいろいろと動かしても、マンホールを穴の部分を通過させることは不可能である。すなわち、マンホールを丸くすると、どのように動かしても、穴の部分から下に落ちないというメリットがある。

ここで取り上げたいのは、「マンホールのような丸い図形以外でも、どのように動かしても下に落ちない同じ性質をもつ図形はあるか」という疑問である。これについては、2008年に出版し既に絶版になった拙著に書いたことであるが、以下が解答である。

下図は、一辺がa cmの正三角形の各頂点から半径a cmの円を描いて完成させた「ルーローの三角形」という図形である。その内側の点線のように、それより内側に入った点だけで構成される部分と同じ形をした穴を地面に開けると、蓋のルーローの三角形は曲げない限り、いろいろ動かしてもその穴を通過することができない。それは、マンホールの問題のように、蓋のルーローの三角形が穴を通過する瞬間の幅を考えれば、ルーローの三角形の作り方から下に落ちないことが分かるだろう。


試行錯誤して自ら学び取ることが大切

では、どうしたら算数や数学を習得できるのだろうか。最初のルートや円周率の事例で出てくる小学校の校長先生はもともと美術が専門だったが、「『やり方』を教える前に試行錯誤をしっかりさせるべきだ」という考え方をもっていた。私の数学教育の考え方と一致する。生徒は自分自身でいろいろと工夫することで考える態度が身に付き、学力も高くなっていくものである。

国際的な学習到達度調査PISAを実施する経済協力開発機構(OECD)の事務総長も同じことを述べている。2006年の調査で日本は読解力、数学的応用力、科学的活用力のすべてで順位を下げた。その発表に合わせて07年12月に来日したグリア事務総長である。「知識を記憶して再現することしか学んでいない生徒は、将来の労働市場で通用しないだろう」

芳沢光雄(よしざわ・みつお)
 1953年東京生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)を経て、現在、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(同志社大学理工学部数理システム学科講師)。理学博士。専門は数学・数学教育。『反「ゆとり教育」奮戦記』(講談社)、『新体系・高校数学の教科書(上・下)』『新体系・中学数学の教科書(上・下)』(ともに講談社ブルーバックス)、『ほんとうに使える数学 基礎編』『ほんとうに使える数学 レベルアップ編』(ともにじっぴコンパクト新書)など著書多数。
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