価値観の多様化と忙しい情報社会が女性を不安に
「ミッドライフクライシスは、極めて個人的な心の問題です。ですから、こういう人はこういうことで必ず悩むとは言い切れないのです。一人ひとりの人生や悩み、課題も異なりますから、『この世代はこう』『その下の世代はこう』とも言い切るのもなかなか難しいですね。ミッドライフクライシスを迎える年代も人によって異なりますし、期間も人それぞれ。極端な話、心の葛藤の状態が一日で終わる人もいれば、十数年かかる人もいます」
しかし、今、ミッドライフクライシスを迎えている女性に、大きな影響を与えている社会環境があるそうです。
「一つ目は、価値観の多様化です。昔と違い、女性の生き方も多様化しています。二つ目は、ネットなどを始めとした、入ってくる情報量の多さです。そして三つ目は、自分をじっくり見つめる時間がないほど忙しいということです」
この三つの社会環境は、女性たちの心にどんな影響を与えているのでしょうか。
「まず、独身か既婚か、子どもがいるかいないか、働いているかいないかなど、女性のライフスタイルはさまざまです。どのライフスタイルを選んでも、一人ひとり、犠牲にした選択肢がありますから、それと連動した課題に葛藤が生じる可能性があります。しかも今の時代は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを通して、自分と違う生き方をしている人の情報が一方的に入ってきます。そうした情報に刺激され、罪悪感を感じたり、自分と違う生き方を批判したくなってしまう。生き方の多様化と入ってくる情報量の増加によって、女性たちの不安感はおのずと増加しやすい環境にあるように思います」
フェイスブックなどSNSの投稿は、子供の誕生や入学式、仕事の成功など、海外での活躍など、晴れがましい内容が多いもの。見る側の心の状態によっては、そうした投稿から「この人は女性あるいは人として“完全”な人生を生きている」というメッセージを受け取ってしまい、必要以上に罪悪感を感じてしまうこともあるでしょう。
「そもそも完全な人生などないのですが、あたかもそんな人生があるかのように感じてしまうのも、一つの認知のゆがみと言っていいでしょう」
例えば、本来の自分は子どもが欲しいと思っていなかったのに、SNSで子どもの誕生や成長などの溢れんばかりの情報を目にしたことで、突然落ち着かなくなって焦燥感にかられ、「自分も家族を持たなければ」と婚活に走ったり、妊娠の準備を始める、というケースもあるようです。
「『みんなと同じ』を好む日本人は、人と自分を比較してしまいがち。人はそれぞれ違って当たり前なのですが、人と違うことを受け入れる許容量が少ない傾向にあるように思います。仕事に生きる人生も、専業主婦として生きる人生も、仕事と家庭の両立をして生きる人生も、一人で生きる人生も、自分でじっくりと考えて覚悟を決めて選択したのであれば、他人がどうであれ、そこに落ち着いていられるはず。しかし、現代は一方的に入ってくる情報が多い上に、みんな忙しいため、自分の本心をじっくり掘り下げて考える時間がなかなか取れません。大量の情報が入力されて処理できなくなる状態になり、『この選択でよかったのだろうか』と突然不安になる、という機会があちらこちらにあるように思います」
