「マッサン」 たくましく生きて輝いた夫婦の物語
日経エンタテインメント!
NHK「連続テレビ小説」の勢いが止まらない。ここ数年好調が伝えられるなか、2013年放送の『あまちゃん』以降は3作連続で平均視聴率が20%を超えた。現在放送中の『マッサン』も高視聴率をキープしている。
物語は、日本のウイスキーの誕生を支えた竹鶴政孝と妻のリタがモデル。大正時代、国産ウイスキー作りに生涯をかけたマッサンこと政春(玉山鉄二)と英国・スコットランド出身の妻、エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)の人生を描いている。外国人ヒロインのキャストを国内外から募集することで、放送開始前から注目を集めていた。制作統括を務めるNHK大阪放送局の櫻井賢氏が2年以上かけて用意した企画だ。
「九州に行った際、手にした小冊子で竹鶴夫妻のことを知りました。夫婦の出発点が大阪だったことから、大阪発でドラマが作れるのでは、と資料を集めました」(櫻井氏)
50年以上の歴史を持つ連続テレビ小説。「黒髪女性」の一代記を描き続けてきた同枠で、外国人をヒロインにすることに異議をとなえる声は上がらなかったのか。
「むしろ好反応でした。この企画が通った理由のひとつに、朝ドラにも挑戦は必要、との考えが局内にあったからではと思っています」(櫻井氏)
放送開始後は、玉山とシャーロットの演技に対する好意的な意見が多く寄せられているという。玉山起用について櫻井氏は「映画『綱引いちゃった!』で地方の素朴な青年役の演技を見て、それまでのイメージが一掃されて。クールな二枚目とは全く違う一面に魅了されました」と話す。
シャーロットは、国内232人、国外289人の応募者から選んだ。29歳で、母国アメリカでもキャリアのない無名女優だが、「プロ意識の高さに頭が下がる」という。
「セリフを少なくとも40回以上声に出し、自分のものにする。想像を絶する努力を続けているシャーロットは本物の女優だと思う。その姿勢は視聴者の皆さんにも伝わっているようで、『エリーがすてき』との声が本当に多い」(櫻井氏)
嫁いびりが物語に奥行きを
序盤では政春の母、早苗(泉ピン子)の嫁いびりが話題となった。
「早苗がエリーに辛く当たったのは、外国人と結婚しても幸せになれないという、大正時代ならごく当たり前の考え方。家を守るという強い意志や、明治生まれの女性の厳しさと迫力を体現できる女優として、泉さんは作品に奥行きを作ってくれた」(櫻井氏)
また、前作『花子とアン』では美輪明宏が担当する独特の語りが話題を集めたのも記憶に新しいところ。本作は声優の松岡洋子が美しい発音で正統派の語りを披露している。
「今回は見ている方にヒロインの心情をしっかり伝えることが肝。その部分を語りに多少担ってもらっています。全体的には主人公夫婦の母目線で、2人の心情に寄り添うものにしています」(櫻井氏)
既にドラマは中盤に突入している。
「マッサンが『鴨井商店』の大将、鴨井(堤真一)と初の国産ウイスキーづくりに向け、固い握手を交わします。しかしそこに至るまでふた山も三山もあり、さらに早苗が再び登場、マッサンが広島に連れ戻され、大混乱が巻き起こります」(櫻井氏)
国際結婚に対し、今では考えられないほど風当たりが強かった時代。強い愛と信頼で結ばれ、困難を乗り越える若い夫婦の姿にしばらく元気をもらうことになりそうだ。
(ライター 田中あおい)
[日経エンタテインメント! 2014年12月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。