進撃の巨人、アニメ化で飛躍 企業巻き込み社会現象に
日経エンタテインメント!
2009年に『別冊少年マガジン』(講談社)で連載を開始した諫山創原作の『進撃の巨人』(以下『進撃』)は、連載直後から「巨人が人を食らう」という少年マンガらしからぬセンセーショナルな設定と、不気味でインパクトのある巨人のビジュアル、先の読めないストーリーが話題を呼び、すぐさま単行本1巻あたり100万部超の人気マンガに成長した。
だが、そこで留まらなかったのがこの作品が「社会現象」といわれるゆえんだ。現在単行本は最新の15巻が2014年12月9日に発売され、累計発行部数は4200万部を超えるメガヒットとなった。
2015年は実写映画の公開も
爆発的なブレークのきっかけは、2013年4~9月に放送されたテレビアニメだ。原作準拠のストーリーと魅力的に描かれたキャラクター、人類にとって巨人を倒す唯一の武器である立体機動装置の華麗なアクションシーンは、大きな話題を集めた。DVD&ブルーレイの売り上げは1巻あたり10万枚を記録。主題歌CDも26万枚を超える異例のヒットとなり、担当アーティストのLinked Horizonは2013年大みそかの『紅白歌合戦』出場に至っている。
アニメで獲得した人気は、様々な方面へ波及する。原作単行本の部数増加に加え、掲載誌『別冊少年マガジン』の発行部数も3倍近くへ。スピンオフマンガや小説版なども次々と刊行され、軒並みヒット。また、アニメ化により顕著となったキャラクター人気を受け、コンビニやお菓子メーカーなどの各種企業とのコラボも盛んに行われ、一般紙やファッション誌にまでその存在を頻繁に取り上げるほどのコンテンツへと成長した。
その後の展開も目白押しだ。2014年11月22日からは、テレビアニメを再編集した劇場版2部作の前編『~紅蓮の弓矢~』を公開。11月28日からは、原作マンガの魅力を網羅した「進撃の巨人展」が東京・上野の森美術館で開催された。2015年は劇場版後編『~自由の翼~』に続き、特撮監督として名高い樋口真嗣を監督に迎えた実写映画の公開も決定している。
様々なアプローチを生み、ファンの裾野を広げる『進撃』の世界は、まだまだ拡大を続けている。
これは王道の少年マンガ、謎を呼ぶミステリーが深みを出す
謎の「巨人」の侵攻により、絶滅の危機にひんした人類と巨人の攻防を描くファンタジーとして誕生した『進撃の巨人』。『別冊少年マガジン』での連載開始当初、その奇抜な発想と人が巨人に食われる残酷な描写などから、少年マンガとしては「異端」と見られていた。しかし、回を重ねるごとに、「王道少年マンガ」として評価を変えていく。
編集者として作品の誕生から携わってきた『週刊少年マガジン』編集部の川窪慎太郎氏が、読者の反響も含め確かな手応えを感じたのは、連載4話目で主人公・エレンが巨人に食べられてしまうシーンを見たときだったと言う。
「普通のマンガだったら、主人公がすぐにやられてしまうなんて、ありえないですよね。この作品は、巨人が人を食う、人が巨人になるという分かりやすい構造がベースにあり、残虐なシーンも少なくない。一見キワモノにも見えますが、でも本質は、弱き(人)が強き(巨人)に立ち向かい、不自由から自由を求めるという王道の少年マンガそのものなんです」(川窪氏)。巨人に食べられた直後のエレンの「復活」は、その象徴的なシーンのひとつといえるだろう。
王道の少年マンガに『進撃』ならではの独自性を与えたのが、「なぜ巨人は生まれたのか」「壁は誰が作ったのか」といったサスペンスやミステリーの要素だ。これによってストーリーは深みを増し、読者は続きが気になって仕方がない、面白い作品が出来上がった。
「(物語の)たたみ方は見えている」(川窪氏)としながらも、諫山とのやり取りは、寸分の隙もない。
「打ち合わせでは、自分からアイデアを出すことはなく、思いつく限りの質問をします。あえて細かくてイジワルなこと、例えば(キャラの)子どもの頃の出来事やバックグラウンドなど、諫山さんの考えのより深いことまで聞き出したりもします。また、作中には多くの謎がありますが、マンガ誌の連載は1回1回が勝負。こうしたネタバレは大小問わずいつどのように明かすかがとても重要になってくるので、都度話し合います」(川窪氏)
アニメ化によるキャラクター人気に企業が反応
アニメ化で作品が爆発的なブレークを遂げ、それに伴い登場するキャラクターに人気が出たことが「タイアップやコラボにつながった」と川窪氏は言う。
「例えば、主人公のエレンはキャラクターや性格を見ても、物語を引っ張るというよりは、物語に動かされるタイプ。あまり少年マンガの主人公らしくないというか…。それがアニメ化されることによって、エレン像がいい方向に一段上がったのかなと。演じてくださった(声優の)梶裕貴さんの声を聞いて、諫山さん自身も、主人公として弱いと感じていたエレンのイメージがよく湧くようになったそうで、絵に厚みが増しました」(川窪氏)
エレンだけでなく、幼なじみのミカサやアルミン、訓練兵時代を共に過ごす104期の面々に、調査兵団のリヴァイやエルヴィンらが、画面で躍動。元より原作にあったキャラクターの持つ個性が、動きや声の力によって鮮明になり、個々の人気を獲得していったことで、『進撃』はひとつのマンガ作品から、企業や世の中を巻き込むコンテンツへと変ぼうを遂げた。
変わったのは世間の評価、100年後も残る作品へ
この秋を皮切りに、『進撃』がさらなるブームアップを狙って送り出すのが、テレビアニメを再編集した劇場版2部作だ。
「まだまだ知名度を上げたいとは思いますが、タイミングなどでアニメの2期をすぐにやるわけにはいかない。ということで、今回の劇場版のアイデアを出しました。『エヴァンゲリオン』シリーズがそうだったように、映画はブームアップに効果があると感じます。実際、『魔法少女まどか☆マギカ』は僕自身映画館で初めて見ましたし、一方で大ヒットしたドラマの『あまちゃん』や『半沢直樹』を見ていない人もたくさんいますから、『進撃』にまだ一度も触れていない人がいるのは当然で、その人たちにとって劇場版が窓口になればと」(川窪氏)
巨大なコンテンツとなった『進撃』は、今後はどこを目指すのか。
「作品の魅力は当初から変わっていませんし、変わったとすれば世間の評価のほう。諫山さんにはデビュー前から、ストーリーやアイデア、戦闘シーンは秀逸だけど、キャラが課題という話をしていたのですが、連載を続けるなかで本当に格好良く進化させてくれました。個人的には、50年、100年後も残るものにしたいですし、作家にも作品にもその力があると確信しています」(川窪氏)
また、裾野は広げつつも、大衆消費財や一過性のブームにならないための施策を常に考えているのだとか。作品力が増す一方で、第一線の作品である証にもつながるビジネスとのバランスが、さらなる飛躍のカギとなりそうだ。
(ライター 山内涼子、日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2014年12月号の記事を基に再構成]
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