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オーケストラの経営学 「考える人」は日本フィルの平井俊邦理事長

2014/11/30

新潮社の季刊「考える人」の2014年秋号が一般誌には珍しく、「オーケストラをつくろう」を特集している。小特集の「山本直純という音楽家」と併せ、音楽の世界に集い、ともに奏でる人々に大きく光を当てる。

■専門家集団に潜む経営の視点

プロオーケストラの場合、楽員すべてが独奏能力を備えた専門家であり「組織としての運営は至難の業」とされる。日本企業の雇用形態がゼネラリストの年功序列制からスペシャリストの契約制へと変わりつつある中、クラシック音楽の古い殻の中にある「オーケストラの経営学」には案外、多くのヒントが潜んでいるのではないか?

バンカーからオーケストラマネジャーに転身した日本フィルハーモニー交響楽団理事長、平井俊邦氏

「考える人」を読みながら抱いた疑問を日本フィルハーモニー交響楽団の平井俊邦理事長にぶつけてみた。平井氏は三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)で組合委員長と取締役の両方を経験した後、千代田化工建設の再建やインテックなどの経営を手がけた実績をかわれ、2007年7月に日本フィルへ招かれた。10年に及んだ債務超過の解消と公益財団法人化を昨年までに実現し、今年7月に理事長へ昇任した。元バンカーのオーケストラ経営哲学に、じっくりと耳を傾けてみよう。

◇ ◇ ◇

オーケストラは企業組織ではなく、個人事業主の集団であると考えると、良く理解できます。ローファームが一人一人の弁護士とパートナー契約をして、専門性を究めるのに、ちょっと似ています。オーケストラの場合は演奏家の集団と、経営に当たる事務所の2つのチームが存在するので、ローファームより一層複雑かもしれません。事務所にも経理、総務、営業などの一般業務だけでなく、演奏会の企画に当たる専門職がいます。企業規模は零細です。組織で整然と活動し、大量生産を前提にした製造業とは全く違います。

日本フィルに来た時、もちろん理事会はありましたが、運営の実質的な主体ではありませんでした。1972年の「日本フィル事件」、つまり当時のスポンサーが支援を打ち切り旧財団法人を解散して以来、日本フィルは楽員主導の労働組合の自主運営で存続し、実質の組合執行部である運営委員会が諸制度から給与、曲目までのすべてを決めていました。それを下支えするのが事務所で、私には組合の書記局のように映りました。「これで本当に綿密な収益改善策、長期の運営ビジョンがつくれるのだろうか?」というのが、入団時の第一印象です。

半面、市民運動で支えてきた歴史には良さもありました。音楽家がお高くとまらず、市民の世界に下りていったことで人々の温かさ、ニーズそのものに直接触れる機会が格段に増えていきました。人々が今、心の中で求めているものを巧みに引き出し、吸収することの大切さを知り、日本フィルは生きています。楽員の世代が交代してもDNAは健在ですから、40周年を迎えた夏の親子コンサートが毎年2万人を集客し、九州全県を回る演奏旅行を40年も続けて来られたのです。

次代を担う子どもたちのための教育プログラム、地域密着路線も他のオーケストラに先んじて展開しましたが、きちんとした戦略までには整っていませんでした。そこで私はこれを活動の3本柱にまとめ、「オーケストラ・コンサート」「エデュケーション・プログラム」「リージョナル・アクティビティー」と命名、活動目標を明確にしました。経営全体に対する目標は2つ。「財政基盤の強化」と「あくなき演奏力の向上」です。就任時点、すでに債務超過でしたから、財団とは名ばかりで、肝心の「財」が底をついている。「一般企業の世界なら、つぶれている」との概念を音楽家たちにもきちんと理解してもらおうと、話し合いを重ねました。

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