なぜ銭湯のおけは「ケロリン」なのか?編集委員 小林明

存亡の危機にひんした「ケロリンおけ」

内外薬品取締役で東京支社長の笹山敬輔さん。35歳。富山県出身。筑波大大学院修了。「ケロリンおけ」の採用を決めた笹山忠松さん(当時、内外薬品副社長)は祖父。父の笹山和紀さんは内外薬品社長

長い歴史を持つ「ケロリンおけ」が存続できるかどうかの危機にひんしたこともある。

2012年11月。内外薬品東京支社長だった笹山さんは、睦和商事の山浦社長からこんな打診を受けた。「私も高齢だし、後継者もいない。睦和商事を廃業したい……」。笹山さんが子どもの頃から、山浦社長とは家族ぐるみの付き合いが続いていた。「ケロリンおけ」は山浦社長の地道な営業努力で成り立っていたビジネスモデルでもあった。

「もう潮時かもしれない。時代の流行に任せてやめたらどうか」。社内の一部ではそんな声も出たというが、様々な可能性を議論した結果、「やはり『ケロリンおけ』はかけがえのない我が社の財産。睦和商事から内外薬品が事業を引き継ぎ、全国に普及した『ケロリンおけ』を何とか維持していこう」という結論に至ったという。

「テルマエ・ロマエ」「ケロロ軍曹」……

2012年4月から公開された阿部寛さん主演の映画「テルマエ・ロマエ」に「ケロリンおけ」が日本の銭湯文化に欠かせない小道具として登場したことも事業存続の力強い後押しになった。

映画は古代ローマの風呂設計技師が現代日本にタイムスリップし、日本の風呂文化と出合うという奇想天外な筋書き。昔ながらの日本の銭湯文化を見直す風潮もあり、外国人にも愛好者が増えている。「ケロリンおけ」はこうした「クール・ジャパン」の一翼も担っているわけだ。

角川書店の人気マンガ「ケロロ軍曹」とのコラボおけ。ツイッターのアカウントがよく似ていることが縁でコラボが実現した

生誕50周年を迎えた2013年。人気マンガ「ケロロ軍曹」とのコラボおけ(税抜き1300円)も誕生した。黄色いおけの底に敬礼する「ケロロ軍曹」のイラストや「ケロリン」「頭痛・歯痛に侵略」「内外薬品」などの文字が印刷されている。

誕生のきっかけはツイッター。「ケロリンおけ」と「ケロロ軍曹」のアカウントがよく似ていたため、フォロアーが商品化を提案。それを受ける形で「ケロロ軍曹」を出版する角川書店と内外薬品が交渉を進め、実現にこぎ着けたそうだ。このほか「ケロリンおけ」をモチーフにしたタオルやバスマット、ストラップなども雑貨店や通販などで販売しており、愛好家や若者らに人気を博している。

「『ケロリンおけ』は長い間広告効果が期待できるし、映画で取り上げられるなど一般への知名度も想像以上に大きい。事務作業は色々と大変だが、頑張って続けたい。ただ銭湯の数が減っているのはとても残念。時代の移り変わりは仕方がないが、人情味があふれ、地域コミュニティーの中核を担ってきた日本の銭湯文化は何としてもなくなってほしくはないですね……」。笹山さんはそんな使命感も感じている。

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