なぜ銭湯のおけは「ケロリン」なのか?編集委員 小林明

普及を促したユニークなビジネスモデル

さて、「ケロリンおけ」は全国の銭湯に次第に広がったが、これにさらに拍車をかけたのがユニークなビジネスモデル。その仕組みを紹介しよう。詳細は次の通り。

「ケロリンおけ」は睦和商事が群馬県にあるメーカーに委託生産し、内外薬品と共同のキャラバン隊などを通じて全国の浴場組合、問屋、旅館、ホテル、レジャー施設などに売り込んだ。その販売個数に応じた広告費を内外薬品が睦和商事に支払うという仕組み。広告費を内外薬品が負担するから、銭湯にとっては割安で「ケロリンおけ」を仕入れることができる。

価格はどの程度だったのか?

条件により大きく異なるそうだが、「ケロリンおけ」1個あたりの原価が600円、その半額の300円を内外薬品が広告費として負担するのが大まかな目安だったようだ。この条件だと銭湯側は1個300円で「ケロリンおけ」を仕入れることが可能。「ケロリン」をPRしたい内外薬品にとっても、おけを安く仕入れたい銭湯にとっても、双方にメリットがあったわけだ。

なぜ「ケロリン」が浴場市場を独占できたのか?

鎮痛薬「ケロリン」のパッケージ。アスピリンと桂皮を配合。「飲めば痛みがケロリと治る」ことから命名

銭湯のおけにほかのメーカーの広告が印刷されることはなかったのだろうか?

「たしかに地域によっては別のメーカーや商品名が入ったおけも一部で出回った例もあったようですが、全国に普及したのは『ケロリン』だけ。維持費や手間が大変ですし、なんといっても先行できた強みが大きいからではないでしょうか」。笹山さんはこう分析する。

睦和商事は事実上、山浦社長1人で切り盛りしており、ほかの広告を請け負うための時間的余裕がなかったことも原因だったようだ。

おけの頑丈さも一役買った。

ポリプロピレン製の「ケロリンおけ」は耐久性に優れ、腰掛けとして使っても壊れることはない。「普通に使えば10年は楽勝でもつでしょう」と笹山さん。「永久おけ」とも呼ばれているほど。だから、おけが長持ちするので、いったん全国の浴場市場を独占したら、それを覆すのはなかなか難しいというわけだ。

文字はインクを内部に埋め込む特殊技術「キクプリント」で印刷されており、使っていても薄くならず、長期間の広告効果が期待できる。コスト面の安さに加え、こうした利便性が銭湯の経営者に強くアピールし、全国に広がったのだ。

銭湯の減少続く、販路開拓に注力

とはいえ、全国の銭湯は一般家庭での内風呂の普及や燃料費の上昇などを背景に減少の一途をたどっている。厚生労働省の統計によると、2013年度の全国の一般公衆浴場(銭湯やスーパー銭湯など)は4542カ所。統計を取り始めた1977年度の1万6866カ所の約3割の水準まで減少した。

こうした事情を踏まえ、内外薬品は全国の温泉、ホテル、旅館、レジャー施設への販路拡大に加え、お土産やノベルティー商品などとしての店頭販売や通信販売にも力を入れている。

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