資産運用が仕事になるまで、経済や投資にはまったく興味がありませんでした。堤清二さんに憧れてセゾングループに入ったら、たまたまグループの資産運用会社に配属されて、そこで初めて金融市場に向き合うことになったんです。
当時は上司も先輩も、周りの人はほぼ全員が株をやっていました。むしろ「え、やってないの?」みたいな時代です。僕も個人的に始めてみましたが、新入社員で年収300万円足らずなのに、つぎ込んだのは2000万円。全部借金です。いまでは考えられないことですが、どこどこの株を買うと言えば金融機関が手数料まで全部貸してくれました。1円も持っていなくても投資ができたわけです。
仕事では企業の事業活動や経済環境をきちんと分析していたのに、自分でやるときは完全にギャンブルで、値動きの激しい銘柄ばかり狙っていました。周りもそうでしたし、あのころに限ってはそれでも全員が勝てたんですよね。
でも、そういう株は値下がりするときもあっという間です。それがいくつも重なって、気づいたら1000万円の損を抱えていました。入社2年目にして、自己破産が頭をよぎりました。追い込まれた末にやったのはまたギャンブルです。最後に一発勝負だ、この銘柄に全部賭けようと。これでダメなら父親に頭を下げて、実家を売ってもらって返すしかない……。そこまで考えましたが、これがたまたま大当たり。何とか借金をチャラにできました。ただ、この件ですっかり懲りてしまって、それっきり株式投資はやめました。
そこでやめておいてよかったかもしれません。バブル崩壊まで続けていた人はもっと悲惨でしたから。ある上司は「俺、きょうから夏休みだから」とだけ電話で告げて、そのまま失踪しました。あとから調べたら株式だけでなくゴルフ会員権などいくつも投資していたそうです。