3世代の旅行、キャンピングカーが似合う
虎(息子)とワンコ3匹を最大限楽しませるための旅。そう銘打って、私、八塩圭子(フリーアナウンサー)と、夫の金子達仁(スポーツライター)は、9月の初旬に1週間ほど旅行に出た。恐らく、最大の目的である「虎満足」と「ワンコ満足」は果たせたと思うのだが、おもてなしする側とすればヘットヘトである。帰ってくるや否や疲れがドッと出て、風邪を引いた。
虎とワンコを最大限楽しませる───これは、想像以上の大仕事にして、至難の業。そりゃそうだ。だって虎と犬でしょ。どんな動物園よ。などとくだらない冗談はさておき、子どもと泊まりやすい宿というのは、まぁある。でも、ペットと…しかもペット3匹と泊まれる宿などというものは、ネット検索が相当便利になったこの世の中でも、探すのは大変だ。
「キャンピングカー、どうよ?」に夫の目、輝く
行き帰りの手段だって考えないといかん。子どもと犬3匹連れてって、電車だ飛行機だ、乗り換えだ、って考えただけでも、「無理、無理、無理っ」と叫びたくなる。実際のところ、不可能に近い。3匹+1人で体重30キロオーバー、これに他の荷物も加えたら、夫婦2人で手分けしたって、運びきれませんって。
だから、子どもとペット連れで行こうとなった時点で、例えば新幹線で行って温泉に泊まるといったいわゆる普通の旅は、ありえない。
そこで、急浮上する選択肢が、キャンピングカー。
唐突に思われるだろうか。でも、わが家ではキャンピングカーはすぐそこにある選択肢なのだ。というのも、うちのだんなさんはキャンピングカーが大好きで、ワールドカップ取材にかこつけて、2度ほどヨーロッパ各国を巡るキャンピングカーの旅をしているのだ。
大会期間中はホテルが取れなかったり高かったりするが、キャンピングカーなら大丈夫。たくさんの弟子が同行してもノープロブレム。大きくて荷物はいくらでも載って、いつでも寝っころがれて、とにかくサイコーさってな話をず~っと聞かされてきたので、今回は私から「キャンピングカー、どうよ」と提案した。
だんなさんがこの提案に乗らないはずはない。
喜々としてネットで検索して、素晴らしい発見をしてくれた。なんと、ペット同乗OKというキャンピングカーのレンタルがあったのだ。やったぁ。これはもうレンタルするしかないでしょう。あっさり移動手段は決まった。
大人4人、子ども1人、犬3匹に1週間分の荷物で車も悲鳴
お次は、宿である。キャンピングカーで行くなら、キャンプ場に駐車し、車で寝るか自分たちでテントを張って泊まるというのが常道なのかもしれない。ただ、そこまでワイルドな旅は、ちょっとママにはハードルが高くて、自信がないのよね、ということで、雨風しのげるコテージが完備されている、ペットOKのキャンプ場を探すことにした。
条件に合う選択肢は数えるほどしかなく、あまり悩むこともなく、ルートは決まった。虎のいとこがいる親戚の家に寄ってから、岐阜のキャンプ場と三重のキャンプ場で2泊ずつすることになった。
さらに、直前になって夫の両親(虎の祖父母)にも参加してもらうことが決まり、かくして大人4人、子ども1人、犬3匹のキャンピングカーの旅はスタートしたのだった。
外出先で初のトイレおしっこ大成功
まず、詰め込む荷物は半端ない。1週間分のおむつに犬用のトイレシート、自炊道具やある程度の食材、犬用のサークルまで持っていくのだから、仕方ない。
もともとの車体自体が重めのキャンピングカーにこれだけの生き物とこれだけの荷物が乗るのだから、坂道などはたまったものではない。ドライバーである夫の嘆きに加え、ひいひい言う悲鳴が、車から聞こえてくるようだった。
道すがら感心したのは、高速道路のサービスエリアの充実ぶりである。どこのSAに行っても必ずと言っていいほど、子どもの遊び場とドッグランがある。食べ物も、色々なジャンルのブースがあって、フードコート形式になっている。うちのような、老若男女+犬入り乱れての大所帯でもなんの苦労もなく、くつろぐことができる。これは、本当にありがたかった。
そして、SAで絶対お世話になるスポットといえば、トイレ。これがまた感動もの。東名阪自動車道のSA、「EXPASA御在所」にはキッズトイレまで完備されていた。メルヘンチックなインテリアで個室が円形に配置されている。背の低い扉を開くと、子ども用のトイレ、低い位置にトイレットペーパーと洗面台。かわいいって親のほうがテンション上がる。
こんなに環境を整えてもらったのならトライしてみようと、自宅でしかトイレおしっこを成功していない虎も、便座に座らせてみた。すると、ちょうどたまっていたのか、すんなり「シャー」。
なんと、虎ちゃん、初めての外出先でのトイレおしっこに成功いたしました。おめでとう。
この素晴らしいトイレに出会えなかったら、やらせてみようっていう気も起きていないだろうから、「EXPASA御在所」のキッズトイレに感謝。やっぱり、こういうトイレとの遭遇も含め、旅には、子どもを成長させる何かがある。大げさかな。
カブトムシにアマガエル、生き物の魅力大発見
今回の旅で見せた「虎の成長」その2は、生き物との触れ合いに目覚めたということ。親戚の家で、いとこたちと遊んでもらっているときのこと。虫かごに入ったカブトムシを見せられた途端、目をキラキラ輝かせ、その場でべったり座って動かなくなった。おそるおそる指でちょんっと触ってみたり、必死に感動だか疑問だかをいとこたちに伝えようと、文章にはならない言葉を発してみたり。
あぁ、やっぱりカブトムシって男の子にはなんか魅力があるのね。私には全く理解できないけど。カブトムシかクワガタか、へたすると、黄金虫とも区別がつかないようなママに育てられていたら好きなものにも出会えないよね。それをカバーする意味でも旅はよい機会だ。
また、キャンプ場でちっちゃなアマガエルに出会ったことは、旅から帰った今でもしっかり記憶に残っているようだ。義母の目撃談によると、どうやら、そのカエルはピョンっと虎の手の甲に乗ったらしい。一瞬で、すぐに逃げてしまったようだが、その体験、触感は虎にとって衝撃だったらしい。
「ゴニョゴニ、カー、ゴニョゴニョ……」(訳:カエルちゃんがね、ボクの手にピョンって乗ったんだよ)
と手の甲をもう一方の手で指し示しながら、自慢げにしゃべるのだ。その日だけでなく翌日も、帰ってきてからも毎日のように、ず~っと同じことを繰り返す。たった1回、カエルが飛び乗っただけで、こんなリアクションとは。つくづく、生き物とじかに触れるのって大切なのね。
いとこ&じいじの魅力も大発見
大切な体験はまだまだある。
いとこたちに囲まれて遊び、恐らく生まれてこのかた一番楽しい時間を過ごしたこと。その証拠に、いとこたちが一斉に引き上げてしまったとき、この世の終わりのように泣き叫び続けたのだった。寝なくてまいった。
そして、きっかけは定かでないが、なぜかものすごい「じいじ」好きになってしまい、何かと言うと「あれ? じいじ、いない」と今しゃべれる最大限の言葉を駆使して、じいじと常に一緒にいようとするようになった。じいじがメロメロになったことは言うまでもない。
こうした「親戚コミュニケーション」や「3世代コミュニケーション」の経験は、虎にとってかけがえのない財産になったと思う。これからもそうした機会をたくさん作ってあげないといけないなぁ。
キャンピングカーの旅第2弾はある、か
虎とワンコを最大限楽しませる旅は、虎の様子を見る限り、大成功だったと言っていいと思う。一方、犬はというと、帰ってきてからずっと疲れて寝続けているのは、ドッグランなどで思いっきり遊べたからだと解釈していいのだろうか。
私がヘトヘトになって風邪を引いただけのことはあったのか。夫は、これで味をしめたのか、キャンピングカー特集の掲載された雑誌とか買ってきているし。いや、買うお金はないからね。レンタルで十分。
もしかしたら、キャンピングカーの旅はうちの定番になるかも?
定番になるかも? いや、します。することに決めました。
いやー、ヨーロッパでも散々楽しませてもらったけど、やっぱキャンピングカーは楽しいっす。非力なクルマでの総走行距離1700キロは、正直、ドライバーとしてはなかなかにしんどいものがありました。それでも移動中、周囲に気を使わなくていいっていうのがとにかくありがたい。虎が泣こうがわめこうが誰にも迷惑かけずに済むんだから。
そういえば、ドイツでのワールドカップの時も、何かと気苦労の多い外国生活でグッタリしていく日本人記者が多い中、我等がキャンピングカー組は最後まで元気だったもんな。
てか、何よりも虎が好きだし、キャンピングカー。
確かにカブトムシには釘付けだった。いとこたちともすぐに仲よくなった。じいじへの懐きっぷりと懐かれたじいじのベタベタぶりには心底びっくりさせられた。ウチの父親、自分の子どもにはまるで無関心だったし、子どもは子どもでひたすら毛嫌いしてたもんで。
ただ、そんなびっくりよりもびっくりしたのが、キャンピングカーへの執着ぶり。ま、もともとクルマ好きではあるようなのですが、知恵と体力の限りを使って助手席に上がろうとするし、上がったら上がったで今度は隣の運転席へ移動してハンドルを握ろうとするし。たぶん、普段の自家用車とはまるで違う景色が見えるっていうのが、めちゃくちゃうれしかったんでしょう。
となると、こら来年もやらないかん。でも、あの非力で足回りが貧弱なクルマはちょっと勘弁。ドライバーズ・シートもちゃんとしてて、エアコンもついてて、そうそう、もうちょっと大きいのがいい。で、わんこもオッケーってやつ。
さてさて、そんなのありますかね。なかったら……宝くじ、買わなきゃいかんな。
フリーアナウンサー。1993年テレビ東京入社。報道局経済部で記者を務めた後、同局アナウンス室に異動。2002年より法政ビジネススクールでマーケティングを専攻し、04年に修了(MBA取得)。03年同局を退職しフリーアナウンサーとして活動を開始。テレビ、ラジオ出演の一方で、関西学院大学商学部准教授、学習院大学経済学部経営学科特別客員教授を歴任。趣味はオペラ、クラシック音楽。「朝ズバッ!」(TBSテレビ)コメンテーター、ANA SKY AUDIO「クラシカル・ウェーブ」パーソナリティー、日経MJで連載中。トップ企業との対談やイベント・コーディネートなど、活躍の場も幅広い。長男誕生から1年は仕事をセーブしていたが、徐々に増やして、大学の教授職も復活予定。著書に『仕事と人生を豊かにする 八塩式マーケティング思考術』などがある。公式ホームページは「KEIKO YASHIO LABORATORY」。
[日経DUAL2014年10月6日付けの掲載記事を基に再構成]
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