「障害とは何かを掘り下げると芸術につながる」 金満里さん
身体障害者の劇団「態変」を主宰
射抜くような視線で観客を見据えながら舞台をはうように進む。照明が当たると、般若のような形相が闇に浮き上がる。舞台を降りた後の砕けた笑顔とはまるで別人だ。
脳性まひや手足が変形した7人の団員が所属する劇団「態変」を主宰して31年。劇中、障害者が縦横無尽に壇上を駆け、転がり、ぶつかる。セリフは一切ない。体の線があらわになった色鮮やかなレオタード姿は、音響と照明で優しく、時に激しく、表情を変える。
母親は朝鮮半島から日本へ来た在日1世の古典芸能伝承者。10人兄弟の末っ子だ。「将来は跡取りに」と期待されたが、3歳でポリオを発症。後遺症で首から下が動かせない重度の障害者となった。7歳で肢体不自由児の施設に入所、10年間過ごした。手術やリハビリを繰り返したがそれに意味を見いだせず、「健常者を目指すのではなく、障害者として生きていく」と決意。日本名ではなく本名の「金」を名のり、障害者の権利を訴える運動に傾倒した。
24時間他人の介護を受ける一人暮らしを21歳で始めた。街に出ると、見るとも見ないともないような視線。「障害者の体を存分に見てもらおう」。重度障害者の生きる姿、そのかすかな動きこそが魂の表現ではないか。運動から芸術へ。29歳で劇団「態変」を旗揚げした。
2年後。健常者の男性の子を妊娠した。「人生設計で予想外の出来事」だったが、帝王切開で男児を出産。介護者を巻き込み育児が始まった。母親として世話はできない。社会で育ててもらうしかない。自分は子どもと対等の目線で一緒に人生を楽しもう。息子が生まれ、「ゼロ歳から成長し直した」。生き様を見せるように演劇に心血を注いだ。
年1~2作の公演すべてで芸術監督を務めて脚本と演出を手掛け、役者としても出演する。一貫したテーマは人間の本質について探ること。「人に興味があるので、考えが沸き上がってくる」
「芸術を追究するのに障害者の体は有利な材料。障害とは何かを掘り下げると芸術につながる」と話す。世界各地の演劇祭などにも数多く呼ばれてきた。「態変の芸術性を海外にもっと越境させたい」と願う。
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