本の題名、やたら長くなっているのはなぜ

実際、同書がヒットして以降、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社、09年)「スタンフォードの自分を変える教室」(大和書房、12年)――などベストセラーの上位には長いタイトルが並ぶようになった。

もともと実用書の分野は長いタイトルが他の分野の書籍に比べて多かった。しかし今年上半期は「長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい」(アスコム)をはじめ、「目は1分でよくなる! あなたの目がよみがえる7つの視力回復法」(自由国民社)など、実用書分野の今年上半期ベストセラートップ10のうち7冊が、サブタイトルを含め15字以上という長いタイトルの本で占められた。

背景に出版不況やネット通販の浸透

実用書やビジネス書の分野で長いタイトルが多くなったことにも事情がある。背景にあるのは、長い出版不況だ。書籍の出版点数はここ数年7万5000~7万8000点で推移しているにもかかわらず、出版取次業者経由の書籍販売額は、昨年が前年比2.3%減の7851億円。ピークだった1996年から3000億円も減っている。読者の書籍に対する財布のひもは固くなっており、書籍を出版しても数が売れない状況が続いているのだ。実用書やビジネス書では各社が似たテーマの書籍を出版するケースも多いだけに「他社と差別化するために、タイトルはある程度説明的にならざるを得ない」(PHPの藤岡氏)。その結果、どうしてもタイトルの字数が増えることになるわけだ。

こんな見方もある。今年上半期の総合ベストセラー第1位、「長生きしたけりゃ……」を発行するアスコム編集部部長の柿内尚文氏は、インターネットなどコミュニケーションの多様化により読者が受け取る情報の総量が年々増えていることが影響していると指摘する。「読者は自分に関係があることにしか関心を払わなくなっており、一見して『この本の内容は自分に関係がある』と思えなければ購入に結びつかない。だから出版社側は、タイトルを見ただけで本の内容がわかるようにしなければならなくなっている」という。

柿内氏は「タイトルに数字を入れるのもポイント」と説明する。読者により具体的なイメージを抱かせるためだ。確かに同社が発売し今年しヒットした「ズボラでも血糖値がみるみる下がる57の方法」「医者に殺されない47の心得」は、いずれもタイトルが数字入り。

50万部を売り上げた「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」(10年)を発行したPHPでは「文芸作品やドキュメンタリーと違い、ビジネス書は具体的な問題を示す必要がある。冒頭に『なぜ』という言葉を据えたのもそのためだ」(藤岡氏)という。実際、「なぜ」で始まるタイトルはビジネス書の分野ではもはや定番となっている。

出版社が長いタイトルにこだわるのには、さらに一つ要因がある。インターネット通販の急速な普及だ。アマゾン・ドット・コムが人気に火をつけた書籍のネット通販は、今や書籍販売の1割を占める。通販サイトには本の内容を紹介する欄があるものの、最も利用者の目に付くのは、大きく表示された本のタイトルだ。ネット通販を意識して「タイトルでいかに内容を説明するか」に腐心する出版社が増えていることは想像に難くない。

略称はヒットのバロメーター

本のタイトルは今後もどんどん長くなっていくのか。そうなると、読者はタイトルを覚え切れなくなってしまうのではないか。そんな疑問もよぎる。講談社の猪熊氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。「タイトルが長ければ、読者の側が略称を考え出してくれる。ですから問題はないと思いますよ」

確かに、ライトノベル業界では「俺の妹が……」は読者の間で「俺妹(おれいも)」という略称で呼ばれ、その略称化が読者拡大にも一役買ったとされる経緯がある。ビジネス書の「もし高校野球の……」も「もしドラ」という略称で広く知られることになった。「読者の間で略称がつくことは、その本が売れていることのバロメーター」(小学館の星野氏)との指摘もあり、出版社側はタイトルの字数に制限はないと考えているようだ。

近い将来、書店の棚が長いタイトルの本で埋め尽くされる日がやって来るかもしれない。

(木村ゆかり)

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