スティーヴ・タイレル「ディス・ガイズ・イン・ラヴ」

デビューから3枚目にあたる本作は、タイレル自身のプロデュースによるもので、2002年に亡くなった母にささげたアルバム。時代を超えて輝き続ける美しいスタンダード曲が、ずらりと並んでいます。まず何よりも耳に残るのは、特徴的なタイレルの声。しわがれたというか、ダミ声というか。でも、それは決して嫌な印象ではなく、どちらかというと、親しみやすくて味があって、安心感をもたらします。色々とこねくりまわさず、ストレートにその曲のメロディーを伝えるのも魅力的。

演奏に合わせて、歌も熱くなっていくエンターテインメント性も抜群で、聴く側の心も熱くさせます。そして彼の作品に欠かせないのは、作曲家のバート・バカラック。彼が勤めていたレコード会社に在籍しているディオンヌ・ワーウィックからの流れもあるようです。このアルバムではバカラックの作品を2曲収録していますが、その後、7枚目のアルバム「バカラックへの想い」(08年・邦題)では、バカラックのカバー集をリリースしました。「バカラックへの想い」は4年前に作られた本作と同時にプロジェクトは進んでいたそうですが、制作過程で愛妻を亡くしたことで、しばらく制作がストップしていたそうです。そういう意味でも、4枚目と7枚目はとてもつながりのある作品。併せて聴くのがお薦めです。

アン・サリー「ムーン・ダンス」

03年に「デイ・ドリーム」「ムーン・ダンス」という2枚のアルバムを、それぞれ別のレーベルから同時にリリースしたアン・サリー。デビュー当時は洋楽カバー曲が中心だったものが、この2枚のアルバムから、音楽ファンにはたまらない隠れ名曲の洋楽カバーに加え、「蘇州夜曲」や「星影の小径」などの日本の歌曲もカバーし、新しいボーカルスタンダードの形を生み出しました。魅力はなんといっても、ピュアで滑らかで、そしてどこか哀愁を帯びた歌声。歌詞が英語であろうと、日本語であろうと、その曲が持つ世界観とメロディーの美しさを存分に引き出しながら、一つ一つ大切に歌に込められているのが伝わってきます。

同時に発売された2枚のアルバムは、テーマ的には昼間と夜に分かれていますが、どちらも洋楽と邦楽のカバーがちりばめられた、こだわりの選曲で作られています。私のように、ロマンチックな夜の作品を求める方には、この「ムーン・ダンス」がピタリとはまります。彼女のその後の作品では、自作曲が増え、日本の作曲家をトリビュートした作品などをリリースしています。ジャズという枠にとらわれず、独自の道を歩んでいる姿勢は、医師としても母としても地に足が付いている彼女の生き方そのものを表しているようです。

▼ここで聴けます

●「東京公演 “ふたりのルーツ・ショー vol.4 ” アン・サリー、畠山美由紀  YEBISU GARDEN PLACE 20th Anniversary presents L'ULTIMO BACIO Anno 14」(12月14日、恵比寿 The Garden Hall) http://www.annsally.org(アン・サリーさん公式サイト)

▼島田奈央子おすすめ、演奏してみるなら

●ジャズ&ソウルライブハウス「GINZ(ギンズ)」 http://www.sam.hi-ho.ne.jp/ginz/

●「平井景×All in Fun ノンジャンル・ジャムセッション」(毎月、第2火曜日)http://allinfun.jp

▼ラジオNIKKEI「テイスト・オブ・ジャズ」に島田奈央子さんが出演

●「JAZZYカフェ」で取り上げているアルバムから選んだ曲が流れます。※インターネットではラジコ(http://radiko.jp/)で、短波ラジオをお持ちの方は「ラジオNIKKEI 第一」(ラジオNIKKEIの公式サイト:http://www.radionikkei.jp/)で。放送予定は11月22日(土)22時~。再放送23日(日)23時30分~、26日(水)23時30分~など。

島田さん提供
島田奈央子(しまだ・なおこ) 音楽ライターとしてジャズを中心に執筆。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの楽しみ方を提案。著書に「Something Jazzy 女子JAZZスタイルブック」など。数多くのジャズのコンピCDやハワイアンのコンピCDなどの監修に携わり、音楽制作のプロデューサーとしても活動。
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