プロミュージシャンには、平日や昼間は会社に勤めながら活動している方も少なくありません。私の周りだけでも、歯科医師のほか、広告会社やTV局にお勤めの方がプロのミュージシャンとしてライブなどの音楽活動をされています。シンガーソングライターとして、ジャズシーンでも活躍されている、アン・サリーさんは現在も医師として働きながら、作品づくりやコンサート活動を続けています。2002年から3年間、医学研究で滞在中のニューオーリンズでも、地元のミュージシャンたちを集めてプライベートで録音したことがあり、帰国後、その経験を基に作ったものが、アルバム「ブラン・ニュー・オリンズ」になって注目されました。今もなお、医師としての活動や、母としての生活のリズムを変えずに暮らしていることが、彼女の音楽の要でもあり、魅力にもなっていると思います。

米人気シンガーは50歳でデビュー

経歴の面白いミュージシャンは海外にもたくさんいます。1999年に50歳でデビューを果たした米国のシンガー、スティーヴ・タイレル(日本デビューは2002年)はデビュー直前まで、レコード会社の制作スタッフでした。スタッフとしてディオンヌ・ワーウィックらのレコーディングでの功績が認められ、91年の映画「花嫁のパパ」でサウンド・トラックのプロデューサーに。本番録音前にデモテープが必要だったため、タイレルが歌ったところ、それを聴いた監督や役者が大いに気に入り、そのまま映画の重要なテーマ曲として使われることになったそうです。

「地元のクラブで歌ったことがある程度」だったというタイレルはその後、友人の勧めもあってCDデビュー。気取りのない、ナチュラルなハスキー声と聴きやすいスタンダードのカバー曲が多いこともあって、米国でも愛されるシンガーに。来日公演も行い、そのエピソードと共に注目を集めました。50歳でデビューし、夢を追い続ける彼の歌には説得力があります。「遅すぎる」なんていう言葉は、彼の中にはなさそうです。

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今回ご紹介するのは、聴いて素晴らしいのはもちろんですが、歌や演奏に挑戦してみても楽しめそうなアルバムをそろえました。ジャズ好きの方が「一歩踏み出す」一助になれば幸いです。

クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ「スタディ・イン・ブラウン」

ジャズの有名スタンダード曲で、ジャズ演奏用練習曲のテキストにも掲載されることが多いのは、なんといっても「Take the “A” Train」。邦題は、「A列車で行こう」。デューク・エリントン楽団のオープニングテーマ曲としても世界中で知られ、多くのカバーが存在します。日本でもCMやTV番組などでもよく流れているので、ジャズに詳しい方でなくても耳にしたことがあるはず。まさに汽車が進むような軽快で明るいイメージの曲で、さらに後半になるにつれ華やかな雰囲気になり、ジャズの楽しさを十分に味わえる曲です。ジャズを始めたらすぐに演奏したくなる、そういう方が多いようですね。アルトサックス奏者にとっては難しい指使いをする部分があるそうですが、それを克服すれば心地良く演奏できるそうです。

ジャズの歴史の中にも、この曲の名演がいくつかあります。まずは爽快に弾きまくるフランス人ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニのライブ演奏。そして、トランペット奏者のクリフォード・ブラウンのアルバム「スタディ・イン・ブラウン」に収録されているトラック。1955年の20代半ばに録音したもので、ハードバップの初期といわれる、激しさとメロディアスさと洗練さが混在した、熱いけど落ち着いたクールな演奏になっています。彼はこの翌年、交通事故で亡くなり、貴重な作品に。「A列車で行こう」を演奏してみたいと思う方には、特に気になるアルバムだと思います。

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スティーヴ・タイレル「ディス・ガイズ・イン・ラヴ」