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アート

2014/11/13

アート

夕日が真っ赤に都心の空を染める

赤には現代人が見る黄色も、青には緑色も入っていたと考えられる。飛鳥時代以降、万物は5要素から成ると説く「陰陽五行説」が伝来し、現代でいう黄色を加えた5色が日本の原色となった。

吉岡さんは「地球上で日本列島がこの位置にあることに感謝している」と話す。温帯の海洋域に浮かぶこの列島は水と光に恵まれ、四季が繊細に移り変わる。そこに生まれる無数の色彩を生かして、人々は豊かな服飾文化を生み出してきた。

自然素材の生地のうち一番多くの色に染まりやすかったのは絹のようだ。平安の王侯貴族をはじめ、権力と富を誇った人々はこの高価な布を利用し、美しい自然の色をまとった。

麻などの簡素な生地しか入手できなかった一般の人々は藍色のように素朴な色に身を包んだ。彼らは、権力者たちが建造する仏教寺院や仏像が極彩色に輝くさまを見て、度肝を抜かれただろう。

女性変えた色彩革命

江戸時代に木綿が出回るようになると町人たちも多彩な色柄の服を着るようになる。権力者がまとう紫などは、まねしてはいけない「禁色(きんじき)」とされ、派手な色を禁じるお触れも盛んに出たが「微妙に異なる色を使うなどして、したたかに色彩を楽しんだ」(吉岡さん)。

日本の色彩文化に大きな変化が生じたのは明治以後だ。外国の自然染料のほか、人工染料が次々に開発されて持ち込まれた。禁色とされていた伝統色も解禁となり、女性の間で紫が流行するなど、色彩革命が起きた。

民俗学者の柳田国男は昭和初期に書いた「明治大正史世相篇」で、目を患って8年ほど見えなくなっていた人の逸話を取り上げている。8年の間で女性の衣装は驚くほど華やかになったとある。

10月のある日の都心。日の出を迎える前から空は徐々に色を変えていった(左から午前4時4分、同5時18分、同5時47分に撮影、東京都千代田区)

今日ではデジタル技術で色彩は無尽蔵に創造できる。だが、こうした「色のインフレーション」は色が人間に与える感動を薄れさせる可能性もある。そんな時代に大空を彩る原初の色彩美。色とは何か、を考えさせる。

(編集委員 平田浩司)

〔日経アートレビューは毎月第二木曜日の朝刊紙面に掲載します〕

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