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ドクターX、相棒…失敗しない人気シリーズが隆盛

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 映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、小説――。現在、エンタテインメント界では「シリーズ」ものが続々生み出され、それが多くの消費者に支持されている。シリーズ作は作品の作り手側、受け手側、それぞれにメリットがある。作り手にとってヒット作のシリーズ化は数字の予想が立てやすい「安全」なプロジェクトだ。制作費を集めるのにも理解が得られやすいし、前作までの作品作りのノウハウを生かし、無駄が省ける。作品の受け手である観客や消費者にとっては、シリーズ作は「安心」して楽しめる。まだまだ景気回復の途上にあって、無駄な支出はしたくないし時間の無駄も避けたい。失敗することなく「安心」して作品を選ぶことができるシリーズ作は、時代の風潮と合っているのだ。そこで今回はこの秋放送されているテレビドラマの中から、最強のシリーズ作品『ドクターX~外科医・大門未知子~』と『相棒』について、ヒットの要因について分析する。

痛快な展開と決めゼリフで視聴者をつかむ『ドクターX』

フリーランスの女性外科医が、卓越した手術の腕を武器に、派遣先の病院に乗り込んでいく。権威には見向きもせず、患者の命を救うことにまい進する女医を描くテレビ朝日の『ドクターX~外科医・大門未知子~』は、勧善懲悪の痛快な展開で、2012年10月放送の第1シーズンでは、民放連ドラの年間視聴率でトップを獲得。続く2013年の第2シーズンでは、最終回で26.9%という高視聴率を記録した。主演の米倉涼子は、強くてブレない未知子役を好演。名実ともに米倉の代表作となった。

『ドクターX』の人気の理由に、「初回から完成していた世界観」がある。趣味と特技が手術だという未知子の「私、失敗しないので」の決めゼリフや、院長に媚(こ)びる部下が返答で連発する「御意(ぎょい)」、それを揶揄(やゆ)する形でわざと丁寧に断る未知子の「いたしません」などの言葉は、作品をより記憶に残るものにしている。表情のインパクトを出すために、執刀中に目をカッと見開く演出を入れるなど、映像面での工夫も取り入れている。

物語としては、難度の高い手術の執刀を主張する未知子の意見が聞き入れられず、最初に勤務医が手術をしようとする。しかし、予想外のことや最悪の事態が起き、未知子が現れて患者の危機を救う、というのが黄金のパターンだ。

ただし、視聴者を飽きさせないための変わったエピソードも存在する。「1人でできる」と言っていた腹腔鏡(ふくくうきょう)と内視鏡を同時に使う手術を、直前に「やっぱりできない」と言い出したケース(第1シーズン、第4話)がその代表。腹腔鏡のスペシャリストである加地(勝村政信)の腕を信じ、自分は内視鏡の補助にまわる。最初から彼を執刀医として手術を成功させることを考えていた、未知子の人間らしさが表れた回だ。これまで、未知子が手術に失敗するという「禁じ手」を使ったことは1度もない。

ベテラン勢が作品の味わいに

また、共演者には経験豊富な演技派が多い。第1シーズンでは伊東四朗が、第2シーズンでは西田敏行が未知子の敵となる人物を演じた。彼らがクセのある役を人間的魅力のある人物に昇華させ、作品に味わいを与えたが、2014年10月開始の第3シーズンでは、そのポジションを北大路欣也が務める。

また、全シリーズに登場している神原(岸部一徳)は、番組名物といえる癒やしの存在。未知子も所属する「神原名医紹介所」のシーンでは、笑いとユーモアあふれるやりとりが繰り広げられ、張りつめた病院でのシーンとの対比が効果的だ。

丹念な取材に裏付けられた医療モノとしての見応えに加えて、俳優陣の深みのある演技が視聴者の心をつかんでいる。

低迷していた刑事ドラマを変えた『相棒』の主人公像

天才的推理力を持つ一方、あまりにくせ者ゆえ警視庁のお荷物的存在の杉下右京。そんな彼が所属する「特命係」を舞台にしたテレビ朝日の『相棒』は、いまや国民的刑事ドラマだ。2000年に単発作品としてスタートし、2002年に連ドラ化。近年も17%以上という高い視聴率をキープしている。

『相棒』の誕生には、当時、刑事ドラマの人気が低迷していたという背景がある。同局の水曜21時の枠は、長く『はぐれ刑事純情派』と『はみだし刑事情熱系』を交互に放送、完全に固定客向けだった。そこで新しい作品を作ることにより打開を図った。『はぐれ~』も『はみだし~』も群像劇だが、よりキャラクターの立つバディものにし、前述の2作が人情劇に寄っていたのを、推理ものに戻した。さらに大きかったのが、水谷豊演じる主人公の右京を「変人」にしたこと。王道の刑事ドラマを作ってきた同枠では思い切った冒険だった。

2000年から2001年に放送した単発3作は、すべて17%以上の高視聴率を記録、力のある作品なのは証明されていた。シーズン3では、最初の3話を連続ものとし、続く4、5話も前後編にして1話完結にこだわらないスタイルに挑戦した。この試みが功を奏した形で、シーズン4から人気が上昇。この年から、新年最初の放送を2時間スペシャルにし、局としても看板番組に育てる姿勢を明確にした。

「相棒」が変わることで進化

また、右京と亀山薫(寺脇康文)の頭脳派&体育会系のコンビは見ていて分かりやすく、薫が突っ走る一方で、右京が冷静に犯人を追い詰めるというストーリーが生きた。このフォーマットを守りながら、市井の人々の事件から警察内部の腐敗、政治家の犯罪まで、バリエーション豊かに話を展開。2008年には劇場版第1弾が公開され、興行収入44.4億円という大ヒットを記録。人気を決定的にした。

シーズン7では放送途中で薫の卒業を発表。メインキャストの交代と、それを放送途中で公表するのは異例のことだったが、2代目の相棒・神戸尊(及川光博)は知性派で、薫とは違うコンビ感を作り出すことに成功。最初は薫に冷たい言動を見せていた右京は、神戸に対しても同様に距離を置き、「スタート当初の右京が戻った」と歓迎する声もあがった。

さらに神戸もシーズン10で特命係を離れ、3代目相棒の甲斐享(成宮寛貴)が登場。今度は、右京が時折見せる父親のような目線が新鮮。まだまだ青臭い甲斐が、右京の新たな一面を引き出した。パートナーが変わるごとに新たな魅力が加わり、進化しているといえる。

誰もが知る定番コンテンツでありながら、ゆるやかにその姿を変えている『相棒』。シーズン13では何を打ち出すのか、楽しみだ。

(ライター 田中あおい、内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2014年11月号の記事を基に再構成]

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