これは脳細胞でも同じことが言える。年齢とともに脳細胞自体の数は減っていくが、頭を使えば使うほど、つまり結晶性知能が伸びれば伸びるほど、脳細胞の分枝が増えてネットワークが密になる。いわば、脳細胞同士が手をつなぎ、連動して動き出すのだ。しかも、このネットワークはドーパミンが増えるほど、つながりやすくなる。要するに、やる気や面白さを感じながら頭を使うと、効率よく頭が良くなるわけだ。

脳細胞のネットワークを密にしておくことは、将来の認知症予防にも役立つ。「脳のどこかが阻害されても、ネットワークが密に張り巡らされていると、それを補うようなバイパスルートもできやすい。これを“認知的予備能”と言う。大人になってからも頭が良くなるということは、この認知的予備能を高めることとイコールだと考えていい」と篠原教授は説明する。

マージャンで脳年齢が若返った

マージャンをやっている人の脳年齢は実年齢より3歳若い (c)PAN XUNBIN/123RF.com

結晶性知能は年齢とともに伸びる。ただ、そうはいっても、ただ漫然と年を重ねているだけでは、伸びるものも伸びない。大人になっても頭を良くしていきたいなら、とにかく頭を使うことだ。仕事だけでなく、趣味や遊びも大事。将棋でも、マージャンでも、読書でもなんでもいい。やる気や快感を持って取り組めるものなら、もっといい。例えば、篠原教授の調査によると、お金を賭けない「健康マージャン」をしている高齢者の脳年齢は、実年齢より3歳若かったという。「マージャンをしているときには知的活動の中核である前頭葉や、相手の気持ちを読むことに関わる側頭頭頂接合部という部位の活動が高まる」(篠原教授)

このほか、有酸素運動も脳にいい。特に、知的活動を組み合わせた「デュアルタスク」の有酸素運動が効果的だという。例えば、歩きながらしりとりをするとか、ジムで自転車エルゴメーターをこぎながら計算をするなど、運動しながら頭を使うわけだ。篠原教授は「有酸素運動だけでも脳にはいいが、知的活動をプラスすると、さらに効果的。認知症の前段階の軽度認知障害の人にも効果があったと報告されている」(*1)という。また、食事も重要で、緑黄色野菜や魚(特に青魚)をしっかり取るといいそうだ。

大人になっても、頭が良くなる“伸びしろ”は大きい。あなたの頭もまだまだ発展途上。これからもどんどん伸ばしていこう!

*1 出典:PLOS ONE 8(4): e61483, 2013

(佐田節子=ライター)

Profile 篠原菊紀(しのはら きくのり)さん
諏訪東京理科大学共通教育センター教授
1960年、長野県生まれ。東京大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、諏訪東京理科大学共通教育センター教授。専門は脳神経科学、応用健康科学。学習、遊び、運動など、日常的な場面での脳活動を調べている。「私自身、受験勉強をしていた頃よりも、今のほうがずっと頭がよくなっています。そして90歳になったときにはもっと頭がよくなっているはず。その時を今から楽しみにしています」。

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