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「ネットスラング」、ルーツは国内最古の歌集に

2014/10/29

「今日は早くカエル(蛙の絵文字)の?」。ある日、母からこんなメールが来た。今はやりの「おかんメール」(母親からの珍メール事例を集めた本)ではないが、絵文字入りのメールを五十路を超えた母が送ってきたのをほほ笑ましく思いながら、ふと考えた。ひらがな、カタカナ、アルファベットや絵文字まである現代と違い、漢字しか文字のなかった時代にはどんな「言葉遊び」があったのだろう。調べてみると、国内最古の歌集「万葉集」にも現代のネットスラングに通じる文字表現があることがわかった。
インターネットやメールの普及で、ネットスラングは日常にすっかり浸透しつつある

万葉集は、8世紀後半の奈良時代に成立したとされる現存最古の歌集。その時代の文字は漢字1種類だけだった。そこで、やまとことばを漢字に当てはめて表記する「万葉仮名」という独特の表記法が採用された。その際に、古代の日本人はしばしば、かなりひねりを利かせた言葉遣いを発明している。

絵文字的なとぼけた感覚 「遊び心当て字型」

例えば、わざと文脈から外れた動物などの漢字を当てて、視覚的なおかしみをもたせる例がある。作者不詳の次の歌がその例だ。

杜若につらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆鶴鴨」(※太字部分は読み下し)

【意味】かきつばたのように美しい顔色をしているあなたを、ふと思い出してはため息をついたことだなあ

最後の「嘆鶴鴨」の読みは「なげきつるかも」。ここでは「鶴」「鴨」と鳥の名前を使っているが、内容は完了の助動詞の連体形「つる」と詠嘆の終助詞「かも」のことで、鳥とは無関係だ。

万葉集にはまた、「馬声蜂音石花蜘●荒鹿(●はむしへんに厨、いぶせくもあるか)」というのもある。「心が晴れないことだなあ」という意味だ。この場合、馬や蜂や蜘●は意味とは全く無関係。当時の日本人は、馬の声を「い」と聞き、蜂の飛ぶ音を「ぶ」と聞いた。石花は当時「せ」と呼ばれていた貝の一種という。

意味とは関係がないが、この字を目にした当時の人々は、思わずクスッとしたのではないだろうか。

日本語学が専門の早稲田大学の笹原宏之教授は、「コンパいける鴨」など現代のメール文でも終助詞の「かも」を「鴨」に置き換える例があることを挙げ、「文末に鴨を突然登場させることで、一種の絵文字的な、とぼけた感覚を生み出そうとしている。こうした遊び心という点で万葉集も、現代のネットスラングも通じるところがある」と話す。サーバーのことを「鯖」と書いたり、スマートフォンなどで自分を撮影する「自撮り」を「地鶏」と書いたりなど、現代のネットスラングも動物などの漢字をわざと使うものは多い。

ネ+申=神 「文字結合型」

ネットスラングには、片仮名の「ネ」と漢字の「申」を合わせて「神」と読んだり、「糸」と「冬」で「終」と読ませたりなど、別の文字を組み合わせて一字とする例がある。半角片仮名の「タ」「ヒ」を組み合わせて「死」、片仮名の「チート」(いかさま、ずるの意味)を一文字で「升」などもそうだ。

この「文字結合型」の言葉遊びも万葉集に類例がある。「山上復有山」。山の上にまた(復)山有り、と書き、この5字で「出(い)づ」と読む。「出」という漢字を分解すると山が二つ上下に重なっていることから生まれた謎かけのような言葉遊びだ。

また海女のことを万葉集では中国の地名「白水」に潜水のうまい人がいたというところから「白水郎(あま)」と読んでいるが、これも「泉郎」と書かれることがある。泉を分解すると白と水になるからだ。

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