「ネットスラング」、ルーツは国内最古の歌集に

888888…で拍手 「数字多用型」

数字を使った音合わせも言葉遊びの定番だが、これも万葉集に表記例が幾つもある。例えば次の歌。

「言云者 三々二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二」

【意味】口に出していえばたいしたことがないように聞こえるでしょうが、心の中では深くあなたを思っているのです

この和歌の上の句「三々二田八酢四」は「みみにたやすし」と読み、数字を当て字のように用いている。その後も「九」と「二」を2回ずつ使っており、意図して数字を並べていることがわかる。

他にも「八十一」と書いて「くく」、「十六」と書いて「しし」と読むなど、かけ算を用いて読み仮名をあてる例もある。

ネットの世界でも数字を使ったスラングは多い。「888888(拍手、ぱちぱちぱち……)」や「2828(にやにや)」「2娘1(にこいち、2人で1つといえるほど仲がいいこと)」――。数字こそ洋数字に変わっっているものの、そのパターンは1200年前と変わらない。

このほか「義之」を「てし(手師)」(文字をたくみに書く人)と読ませるものもある。これは中国の東晋時代の大書家「王羲之」の名前をもじったものだが、当世の有名人の名前を別の読み方で表すのは、「天才」と書いて「イチロー」などと読ませるのとも通じるところがある。

言葉遊び生みやすい日本語の構造

もちろん、当時の教養人が書き言葉でつづった万葉集と、教養が平均化している現代人が口語でつづるネットスラングとでは事情が異なる点はある。例えば、ネットスラングは変換ソフトによってより同音異字の書き換えがしやすくなっていたり、電子掲示板で攻撃的な文言が規制されるのを避けるためにわざと言い換えをしたりしているなどの事情がある。

それでも、現代のネットスラングと現存最古の歌集である万葉集との間で、今も昔も変わらない言葉遊びの手法が通用するのはなぜだろうか。

その理由は、日本語の構造に求めることができる。「性格」と「正確」、「医師」と「意志」など、全く意味は異なるのに音は同じという言葉は数多い。音の一致をたよりに意味の異なる漢字をあてよう、という発想が生まれやすい素地が日本語にはある。

梅花女子大学の米川明彦教授は「もともと漢字は偏とつくりとで自由に意味を組み合わせることができる、遊びやすい文字だ」と述べる。漢字を分解して組み立てなおすという発想は、漢字を常用する日本人には自然に生まれやすいわけだ。

もっと根本的に、わざわざそういうことをして遊ぶ性質が日本人にはあることが原因だという考えもある。

笹原早大教授は、日本語の構造だけではなく、日本語を操る日本人の心性に理由があるのではないか、と考える。「漢字を日常的に使う民族の中で日本人は特に言葉の表記から醸しだされるニュアンスに愛着を感じる気質を持っているといえる」(笹原教授)。

現在の趨勢はアルファベット活用型か

文面だけでは表現できない微妙な情緒を伝えるために、表記を工夫して変えたり、記号や絵文字を使ったりするようになる。言葉にどうやって繊細な感情やニュアンスを込めるかに専心する性質を持つ日本人だからこそ、これだけ言葉遊びが発達するようになったのではないだろうか。

こうした一定のパターンに従った言葉遊びは、江戸時代、明治時代……と近世に入って以降も連綿と続いている。米川教授によると、現代のネットスラングはアルファベットを活用するのが趨勢になっている。「KY(空気読めない)」「ktkr(きたこれ)」「kwsk(詳しく)」など、言葉の頭文字をアルファベットにしてつなげるタイプのスラングが増えているという。グローバル化が進む中、万葉集の時代にはなかったアルファベット、さらには絵文字や記号なども巻き込みながら、言葉遊びは今もなお広がり続けている。(山本紗世)

注目記事
今こそ始める学び特集