ナショジオ

スペシャル

映画が描かない、海賊から船を守った影のヒーロー ありえない生還劇

2014/11/23

ナショナルジオグラフィック日本版

「事実は小説よりも奇なり」といいますが、絶体絶命の危機から生還した実話も、すぐには信じられないようなエピソードばかりです。ナショナル ジオグラフィックが集めたそんな実話の中から、特に「ありえない生還劇」をご紹介します。

2014年のアカデミー賞にもノミネートされた映画『キャプテン・フィリップス』。米国の貨物船マースク・アラバマ号がソマリアの海賊に襲撃された、2009年の事件を映画化したものです。フィリップス船長の手記を元にした映画では、船長が単身海賊の人質となってから海軍特殊部隊に救出されるまでに焦点が当たっていますが、そもそも貨物船を海賊に乗っ取られずに済んだのには、ある男の活躍が大きかったのです――。

アデン湾(VladGalenko/Shutterstock)

■海賊が跋扈(ばっこ)する無法海域に乗っ取られたはずの台湾漁船が…

地中海からスエズ運河を通り、紅海を抜けると、アラビア半島南岸とアフリカ大陸との間にアデン湾が広がる。このアデン湾は、年間およそ3万隻の商船が通過する海運の要衝なのだが、1990年代後半以降、海運の大きな脅威となっているものがある。

ソマリアの海賊だ。

2008年には111件の襲撃があり、うち42件で乗っ取りが成功した。2010年も少なくとも35隻の船を奪い、650人以上の人質を取っている。海賊は乗っ取った船を自分たちの「母船」とし、そこから高速の小型船を使って商船を襲撃する。

海賊行為は彼らにとってビッグビジネスだ。大抵の場合は身代金が支払われるので、海賊はその金で優雅な生活を送れる。1日の平均収入が2ドル足らずという世界有数の貧困国ソマリアでは、なかなか味わえないぜいたくなのだ。

2009年4月8日、フィリップス船長ほか20人が乗った米国船籍のコンテナ船、マースク・アラバマ号はジブチからケニアに向かう3400キロの航海の途上にあった。1万7000トンの貨物(うち5000トンはソマリア、ウガンダ、ケニア向け救援物資)を積んだアラバマ号は、ソマリアのエイル港の南東440キロを航行していた。

その週は既に5隻の船が海賊に襲われていたが、アラバマ号はまもなくこの最も危険な水域から抜け出るところだった。

そのとき突然、台湾船籍の漁船が姿を現した。この船は2日前、セーシェル諸島周辺で海賊に乗っ取られたはずだ。アラバマ号の乗組員はぞっとした。重武装したソマリアの海賊4人が、漁船から小型モーターボートに乗り移り、猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。

乗組員たちは海賊に向けて照明弾を発射したが、追い払うことはできなかった。海賊たちはあっという間にアラバマ号に乗り込んできた。このままでは乗っ取られてしまう。

だが、まさかこの乗組員たちが反撃の態勢を整えていようとは、海賊は思いもしなかった。

ナショジオ 新着記事

ALL CHANNEL