「私はいつもこれなの。ごぼ天」。9月のある昼時、1882年(明治15年)創業の老舗うどん屋「かろのうろん」(福岡市博多区)。若い女性2人組の1人はこう注文すると、薄切りごぼうの天ぷらが載った熱々のうどんに笑顔で箸を進めた。厨房前の木製カウンターにはお手製のごぼ天が山盛り。注文の半数以上を占める人気ぶりだ。丸天も同1~2割を占めるという。
九州や関東などでうどん屋などを展開する「ウエスト」(福岡市)でも、福岡の店舗ではごぼ天は多様なメニューの中で人気ナンバーワンだ。だが、同社が千葉県で運営している店舗では注文数が福岡の店舗の10分の1に届かない。「関東ではほとんど知られていない」(同社)のが実情だ。
ごぼ天がご当地メニューであることはカップ麺からも分かる。東洋水産の「マルちゃん バリうまごぼ天うどん」は九州限定。2011年まで販売された「どん兵衛 博多ごぼう天うどん」も九州と中四国限定で、日清食品ホールディングスは「博多の地域に根ざした商品」としている。
福岡市麺類商工協同組合は04年にまとめた冊子で、ごぼ天について「関門海峡を越えて下関まで行くと、ほとんどその姿が見られない」と認める。
では、その起源はどこにあるのだろうか。同組合などによると、ごぼ天は明治から戦前まで福岡・天神に店を構えた「おとちゃんうどん」(閉店)が発祥とされる。煮付けた厚切りごぼうを揚げた具が評判を呼んで博多に広まったという。
なぜ、ごぼ天は博多で受け入れられたのか。一説が、健康志向に合ったというものだ。博多では軟らかい麺が好まれる。この麺に、かき揚げ型のごぼ天を提供する創業60年の「みやけうどん」(同市博多区)の三宅正一さん(62)は「『やわ麺』は消化によく、術後にいいといわれる」と言う。