山でなじみのアサギマダラ 渡りで列島を縦断

半透明の羽をもつアサギマダラ=写真 永幡嘉之

アサギマダラといえば、登山者にはよく名を知られたチョウのひとつ。夏の山歩きの尾根道で、霧が去来するなかを風に乗って羽ばたきもせずに横切ってゆく姿を思い浮かべる方も多いだろう。

標本では半透明な羽 野外では水色に

時に「浅黄色」と記した図鑑もあったが、近年は名前の由来どおりに浅葱(あさぎ)色という表記が定着してきた。浅葱色とは日本古来の色名で、淡い藍色ないし青緑色のこと。図鑑や標本で白黒に見える半透明の羽は、野外では空の色を映したかのように水色に透ける。

このチョウは近年になって、渡りをすることが有名になってきた。古くから、毎年夏になると東北あるいは北海道まで見られるのに、越冬する幼虫は西日本でわずかに見つかるのみで、北日本では全く見られなくなるという状況証拠から、季節によって移動するのではないかと推定されていた。渡りをする習性が具体的に分かってきたのはかなり新しく、主に今世紀に入ってからのことだ。

春に南西諸島などの暖地から北上してゆく。奄美群島の喜界島や大分県の姫島など数地点に多数が集結しながら、田植えから少し遅れて本州でも姿が見られるようになる。夏には蔵王、吾妻といった東北の山々や中部山岳、それに滋賀県の比良山や中国山地の各所などにアサギマダラが群れる場所がある。

夏の高原では多数が見られることも=写真 永幡嘉之

ブナ林のなかのヨツバヒヨドリという花を好んで訪れ、人々の目を楽しませたチョウは9月に入る頃に忽然(こつぜん)と姿を消し、同時に南下の旅が始まる。10月に入ると、愛知県の伊良湖岬、和歌山県、高知県の室戸岬や足摺岬など、陸地の突端部に集まりながら南下し、九州や喜界島を経て、11月には八重山など亜熱帯地域にまで渡る個体もある。

さらにまれながらも、日本で標識されて放されたものが台湾あるいは中国で再捕獲される例もでてきた。夏に中部山岳で標識した個体を、秋になって西日本や南西諸島で再捕獲した例が続いたことなどは、同好者の熱狂的な努力の証ともいえるだろう。

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