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コオロギは昔キリギリスだった? 虫の呼び名の謎

2014/10/15

「キリギリス→コオロギ」変化のワケ

それなら、ハタオリの鳴き声は何と表現されていたのか? 生き物の鳴き声の歴史に詳しい山口仲美・埼玉大学名誉教授に聞くと、「キリハタリチョー」だと教えてくれた。室町時代の謡曲「松虫」に「面白や千種にすだく虫の音も、はた織音のきりはたりちゃう、きりはたりちゃう」と出てくる。

このハタオリの「キリハタリチョー」という鳴き声がキリギリスを連想させたのではないか。実際、東日本のあちこちの方言で、キリギリスは「ギッチョ」や「ギリッチョ」など鳴き声で呼ばれる。ハタオリも、鳴き声につられてその鳴き声と似たキリギリスと呼び習わされるようになった可能性がある。

ただ、現在のコオロギのことを指していたキリギリスという言葉がハタオリの呼び名に移行したとすると、コオロギのことを指す言葉がなくなってしまうことになる。そこで奈良時代には鳴く虫の総称を意味した「コオロギ」という言葉がコオロギを指す代わりの言葉になり、呼び名が「キリギリス→コオロギ」と変化したという推理が成り立ちそうだ。国語学者の真田信治・奈良大学教授にも聞いてみたところ、確かに「指す言葉がなくなった空白を他の言葉が補うことで名称の変化が起こることは十分考えられる」と話す。

たくさんいる「名前が変化した虫」

実は、キリギリス、コオロギのほかにも名前が変化した虫はたくさんいる。例えば鈴虫と松虫は平安時代には呼び名が反対で、鈴虫を松虫、松虫を鈴虫と呼んでいたといわれている。カマキリとトカゲも地域によって呼び名が逆だったという。実際、「カマギッチョ」という方言がトカゲとカマキリ両方を示すことがあったことに由来するとの指摘がある。

きょうもコオロギは涼しそうな声で鳴いている。コオロギの呼び名が変化したのは、やはりこの鳴き声が理由だったのか、それとも、もしかしたらもっとほかの理由があるのか――。コオロギの名前を巡る謎はまだ尽きない。それを解く決定的な鍵はいまだ「薮の中」にある。

(桜井豪)

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