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ワーグナーの仏教オペラ?「パルジファル」 ベテランのクプファーが東京で演出

2014/10/16

 19世紀ドイツ最大のオペラ作曲家リヒャルト・ワーグナー(1813~83年)が40歳代から仏教に傾倒し、その価値観を最後に完成した舞台神聖祝祭劇「パルジファル」(1882年初演)で大胆に採用した事実はまだ、あまり知られていない。音楽の専門家の間でも「キリスト教的作品」とみなされることが多い。

■仏僧に導かれ、「光の道」へ進む主人公

 旧東ドイツを代表する演出家だったベテラン、ハリー・クプファー(1935年生まれ)が東京の新国立劇場で制作した「パルジファル」の新しい舞台(10月2日初日)は「ともに苦しみつつ知にいたる」倫理でキリスト教と仏教の間に橋をかけ、「生きること」で「より大きな人間性」を目指す肯定的な結末を打ち出した。長く日本とかかわってきた大家による異文化への畏怖の表明としても、極めて感銘深い視覚である。

パルジファル(左)はクンドリー(中央後ろ向き)、グルネマンツ(右)に僧衣を分け与え、僧侶たちに導かれながら「光の道」へと歩み出す(撮影=寺司正彦、提供=新国立劇場)

 中でも意表をついたのは、最後の場面。自然児から愛と人間性に目覚め、王たちの苦悩を断ち切り、新たな王の道を歩み出すパルジファルは老騎士グルネマンツ、キリストをあざけり笑った「永遠のユダヤ人」ゆえに何度生まれ変わっても救われない女性クンドリーにも僧衣を分け与える。そして手を携え、仏僧に導かれて「光の道」を上る。目指す先は天竺(てんじく)だろうか? ワーグナーの台本では、深い傷を負った聖杯王アムフォルタスがパルジファルの聖なる剣で息を吹き返す一方、クンドリーには「死による救済」が訪れていたはずだ。クプファーはアムフォルタスに死の救済を与えた代わり、クンドリーには「キリスト教を内包しつつ、仏教へと進む」未来を施すという形に読み替えた。

 クプファーによれば、アムフォルタスの傷は「ワーグナーの時代にいたるまで教えを悪用され、ドグマにまみれてしまったキリスト教そのものに与えられた傷」だった。仏教によるキリスト教の救済と、両者の邂逅(かいこう)でもたらされる新たな光。クプファーは2005年にヘルシンキのフィンランド国立歌劇場で「パルジファル」を演出した際、初めて仏教の要素を取り入れた。その時も「光の道」を強調したが、第1幕と第3幕に仏僧を登場させ、作務衣(さむえ)のような衣装をまとったパルジファルが悟りを開く瞬間、僧侶の一人が僧衣を分け与える場面は今回の東京で、新たに加わった。

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