今回のテーマは睡眠時間の個人差をもたらす第3の要因「眠気(睡眠不足)に打ち勝つ力」である。なんとも響きのよいタイトルだが、褒めそやしているのではない。なまじ睡眠不足に耐える力があると、むしろ健康的には社会生活上の問題が生じやすいため注意が必要なのだ。これから何回かに分けて日本人の睡眠不足の現状とそれがもたらすリスクについて紹介する。
睡眠時間の個人差に影響を与える「眠くても寝ない」人の存在

これまで何度か説明したように、適正な睡眠時間は遺伝(体質)や環境(ライフスタイル)のバランスの中でおのずと決まってくる。しかし交通標識と同じで、それを守るかどうかは別問題だ。横断歩道ではきっちり信号を守るのに、睡眠についてはつい赤信号を見落としてしまう、時には「えいやっ!」とみんなで渡ってしまう、それが日本人である。
睡眠時間の疫学調査を行うと、3時間台から10時間台まで7時間以上の大きな開きが見られる。一方、健康生活を送るために体が最低限必要としている睡眠時間の個人差は2時間程度である(「健康のため譲れない眠り 『必要睡眠量』はどう測る」参照)。これに発達、加齢、性差、季節、ライフスタイル(活動量や食事など)の影響を合わせても到底7時間には及ばない。
では個人差の「残りの部分」はどうやって生まれるのか。答えは単純である。「眠くても寝ない」人が多数いるためである。怒らず読み進めていただきたい。「身長の個人差の一部はつま先立ちです」と言ってるようなもので、ムッとされるのも当然です。しかし実生活でみられる睡眠時間の個人差のかなりの部分は、この「眠気に打ち勝つ力」の個人差で生じているのである。理論的には「眠くないのに寝る」人もいて不思議はないが、実数は少ない(と思われる)。時折やる“ふて寝”はこれには該当しない。