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M・ジークハルト指揮NHK交響楽団 ブルックナー「交響曲第4番」 感情を表す指揮、中欧の叙情引き出す

2014/10/13

オーストリア後期ロマン派の作曲家アントン・ブルックナー(1824~96年)の作品を得意とするウィーン生まれの指揮者、マルティン・ジークハルトが来日した。10月2日にNHK交響楽団を指揮してブルックナーの「交響曲第4番変ホ長調《ロマンチック》」を披露。ドイツ=オーストリア音楽の本場で活躍する指揮者は「オーケストラとの感情の対話」によって作曲家ゆかりの中欧の叙情を引き出した。

NHK交響楽団を指揮するマルティン・ジークハルト(10月2日、NHKホール)=(C)NHK音楽祭2014

「N響のサウンドからは中欧の感じを非常に受ける」。公演明けの10月3日、都内ホテルで会ったジークハルトはこう話し始めた。彼が言う「中欧の感じ」とはもちろん、欧州大陸の真ん中、ドナウ川が流れる南ドイツ、北オーストリア、チェコ南部にかけての風光明媚(めいび)な田園風景や街並みのことだ。都市でいえばドイツのパッサウからモーツァルトの生地ザルツブルク、そしてブルックナーの故郷リンツあたり。日本人が思い描くヨーロッパそのものといえる土地柄だ。「N響には欧州に長く留学していた楽団員が多い。欧州の指揮者をいつも迎えているのも影響しているのではないか」とジークハルトは語る。

クラシック音楽を欧州の民族音楽と捉えれば、その作曲家が生きた土地の文化や風土を肌身で知る指揮者は有利となる。ジークハルトはブルックナーゆかりの地で活躍してきた最たる指揮者の1人だ。もともとはチェリストで、ロヴロ・フォン・マタチッチやオイゲン・ヨッフムら往年の巨匠たちの指揮のもとでチェロを弾いた。ウィーン交響楽団の首席チェロ奏者を経て指揮者に転身。1992年から8年間、リンツ国立歌劇場の音楽監督とリンツ・ブルックナー管弦楽団の首席指揮者を兼務し、とりわけ地元の作曲家であるブルックナーとモーツァルトの作品の演奏・録音で高い評価を得た。現在もウィーン交響楽団を定期的に指揮している。

前半は2010年ショパン国際コンクール優勝のピアニスト、ユリアンナ・アヴデーエワとの協演によるモーツァルト「ピアノ協奏曲第21番ハ長調」(10月2日、NHKホール)=(C)NHK音楽祭2014

そんなオーストリア人がN響との初共演で指揮したのは、やはり得意のモーツァルトとブルックナーの楽曲だった。10月2日、NHKホール(東京・渋谷)で開かれた「NHK音楽祭2014 管弦楽の黄金時代 後期ロマン派の壮大な調べ」の第1日、ジークハルト指揮のN響の公演はまずモーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467」から始まった。協演のピアニストは2010年ショパン国際コンクール優勝の注目株、ロシア生まれのユリアンナ・アヴデーエワである。

シンプルで明るいハ長調の響きで下地が作られた後、アヴデーエワの端正でかれんなピアノが入ってくる。モダン楽器のN響による、ごく普通に聞こえるモーツァルトだが、印象深いのはソナタ形式の第1楽章の中でも短調が続く中間の展開部だ。アヴデーエワのピアノが分散和音を気品のある明瞭な音色で刻みながら、弦楽器や木管が絡まりつつ、哀愁の和声を紡いでいく。そう長い部分でもないのに、みずみずしさと枯淡が溶け合ったような“かなしみ”の響きが美しい存在感を持つ演奏だった。

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