プレスの小館氏は「ファッションはぜいたくなもので楽しむもの、というのがオープニングセレモニーのコンセプト。買う、見るだけでなく、触ったり、触れたりすることでテンションが上がるので、ぜひ体験してみてほしい。これまでの店舗はレイアウトを変えたりなどいろんな工夫をしてきたが、ここではプロジェクションマッピングもインタラクティブハンガーも数分後には変わっているので、常に見え方が違うのが新鮮」と話す。
リアル店舗にわざわざ足を運ぶ価値とは?

ネット通販が当たり前になるなか、リアル店舗でのショッピング体験をいかに価値あるものにしていくか。それは全ての小売店に突きつけられた課題だ。その課題に挑戦すべくデジタルコンテンツを導入し、「新しいショッピングの体験」をコンセプトにオープンしたオープニングセレモニー大阪店。デジタルコンテンツが単なるゲーム感覚の集客装置ではなく、収益を生むための装置として機能するために、店づくりで配慮したポイントを、チームラボ ブランドディレクターの工藤岳氏と建築家の河田将吾氏に聞いた。
――同店では「新しいショッピング体験」をコンセプトに、デジタルとファッションとアートの融合を図っている。その狙いは。
工藤氏:もともと洋服を買ったり、試着したりする行為は楽しいはずだけど、いまはインターネットが普及し、ネットで購入するほうが便利になっている。そんななかでも、オープニングセレモニーは店舗に来店してもらい、スタッフとの会話などを通してブランドや店のファンを作っていくことを目指している。デジタルを活用して顧客づくりのサポートができればと思った。
――デジタルコンテンツを導入することで、店舗の活性化は図れるか。
工藤氏:ネット通販と異なり、ここでしかできないデジタル体験は売り上げにもつながると確信している。例えば、音楽の世界でもわざわざお金を払ってライブに行くのは、会場でしか体験できない臨場感があるから。同店でも、カップルや友人同士で来店してもらい、リアルタイムで撮影したり、SNS(交流サイト)で共有したりして楽しんでもらえる。「店舗そのものがデジタル空間」と言ってもいい。
――通常の店舗と異なり、店舗づくりで工夫した点は。
河田氏:店内にデジタルコンテンツを配置していても、使ってもらわなければ意味がない。そのため、デジタル機器は導線に合わせて視覚に入るように壁面や店内の隅に配置し、回遊性を高めるように考えた。入り口から2方向に分かれる売り場だが、左手には大型のインプレッションウォールを、右手には立体的なミラーキューブを置いて顧客の興味を引く仕掛けをしている。

――苦労した点は。
河田氏:モニターでコンテンツを制作するが、実際に店舗で体験してみないと分からないことがあることと、全体の空間をどうつなげて構成していくか。それぞれのコーナーやデジタルコンテンツはキューブや円形など特徴的な図形や色で構成されているが、一見バラバラに見えて実は全体がつながっている。それが、心地良さの要因にもなっている。
――シンプルな図形のほうがいいのか。
河田氏:花や顔など複雑な図形より、丸や四角など幾何学のほうが大勢の人に認識してもらえる。また、「店舗は明るくないと購買意欲が沸かない」というのが個人的な考え。そのため、プロジェクションマッピングを展開するコーナーも明るくし、そのなかで映像がきちんと見えるようにした。
――ファッションとデジタルの融合については。
河田氏:今回、店づくりでは「エレガント」を重視した。しかし、デジタルとエレガントは実のところ、融合しにくい。当初はもっと具象的なアイデアだったが、抽象的な概念の組み合わせに変えることで、エレガントさを表現できた。
――デジタルコンテンツを導入する場合、高コストにならないか。
河田氏:デジタルコンテンツも内装の一部。坪単価でいえば、ほとんど変わらない。モニターやプロジェクターなど壁面を使うことで、 小さな店でも導入できる。
――今後、同店のようなデジタルコンテンツを導入するアパレル店は増えていくか。
工藤氏:バンキッシュが展開する渋谷109の店舗ではチームラボカメラとハンガーを導入し、売り上げが飛躍的に伸びた。若い女性はネット通販で洋服を買うのが当たり前になっているが、リアル店舗での買い物が楽しくなれば顧客は増える。売り場にデジタルをどう取り入れるのかが今後の必須課題になると思う。
河田氏:昔はデジタルと店舗は区別してとらえられていたが、スマホやタブレットなどデジタルデバイスが一般の生活の中に入ってきているので、必然的に増えていくと思う。
(ライター 橋長初代)
[日経トレンディネット 2014年9月11日付の記事を基に再構成]