残るはズーム 驚きの手ぶれ防止、新型iPhone検証
芸術の秋。特に今年は日本各地で大規模なアートの展示が催されている。最近は展示物について一部写真撮影可能なものがもあり、商用利用や動画撮影を除き、作家名と作品名を併記すれば写真を公開できる規則もある。そのルールを守りながら、iPhone6Plusを片手に横浜市で3年ごとに開かれている祭典「ヨコハマトリエンナーレ2014」(以下、ヨコトリ2014)を訪れた。
■手ぶれ補正の威力、こんなところに
ヨコトリ2014では、横浜美術館と新港ふ頭にある「新港ピア」の2会場で400点以上の作品が「忘却」をテーマに来場者をお出迎え。「写真を撮れるので、家族で楽しめる」「来場の記念に残せてありがたい」――と、来場者は作品を鑑賞するだけでなく、写真撮影も楽しんでいる様子だ。
美術館で撮影できる展示物を写真に収めるときに、ひとつ困ることがある。会場の暗さだ。もちろん作品を守るためなのだが、頑張って脇を締めて構えて撮っても、暗さのせいで画質が悪くノイズだらけになってしまった――などという経験がみなさんもあるのではないか。
しかしiPhone6Plusで撮ってみると、暗くてもピントもスムーズに合わせられ、作品をきれいに写すことができた。
なぜきれいに撮れるのか? 理由は、傾きや回転速度を計測する「ジャイロスコープ」などを搭載した「光学式手ぶれ補正機能」のおかげだ。気になって撮った写真の撮影データを確認してみると、シャッタースピードが1/4秒と非常に遅かった。実はこれは驚くべき数字といえる。報道カメラマンでも、このスローシャッターでぶれずに撮影するのはなかなか大変だ。通常なら、微妙に手が震えただけでブレが写真に現れてしまう数値レベルだ。
さらにノイズの少なさも際立っていた。写真の感度を示すISOの値が80だった。この数値は、低ければ低いほどノイズが少なくきれいな写真になる。ISO80というのは一般的には大きく引き延ばして風景写真に使うような水準だ。アート作品を撮るのに十分ふさわしい画質といえる。
iPhone 6 Plus | iPhone5s | |
---|---|---|
焦点距離 | 4.15mm | 4.12mm |
絞り値 | f/2.2 | f/2.2 |
最高ISO感度 | 500 | 2500 |
最長シャッター速度 | 1/4秒 | 1/15 |
5s→6Plusでの変化 | ピント合わせが速い | |
光学式手ぶれ補正 | ||
ライムラプス(早送り動画)機能 | ||
240fpsスローモーション | ||
タイマー撮影 |
日ごろの撮影取材でも、屋内の暗い場所で、しかも三脚が使えない場合には、ISO1600以上の高感度にしてぶれないように撮ることがよくある。最近のデジカメは非常に進歩しており、ISO1600以上でもノイズが少なくなってきているが、スマホのカメラの場合、同じISO数値で撮ってもノイズが目立つことが多い。しかしiPhone6Plusの手ぶれ補正機能は、スローシャッターを切れるため高感度に設定しなくても写真がきれいに撮れる。この性能の高さはあなどれない。
とはいえ、この機能は撮影者の手ぶれを補正するもので、動く被写体を撮るときに生じる「被写体ブレ」を軽減するわけではないので注意したい。フラッシュをたいたり、被写体の動きに合わせて流し撮りをしたり、といったもう一工夫が必要になるだろう。
■カメラマン待望のマニュアル操作
美術館の外にも展示があるのがヨコトリ2014の魅力。しかし館外の作品を撮る場合、逆光になってしまうこともあり、なかなか思うように撮れない。そんなときは露出補正で切り抜けよう。純正カメラアプリを立ち上げて画面をタッチすると、ピントを合わせる黄色い四角とともに右に太陽のようなマークが現れる。これを上にスワイプ(画面に触れた状態で指を滑らせる操作)すれば画面全体が明るくなり、下げれば暗く調整できる。
基本的な仕組みは、求める明るさに応じてシャッター速度を変えているだけなので、画質が劣化するわけではない。この機能を使えば、逆光時の撮影や、写真の雰囲気を意図的に変えたいときに撮影前から完成写真をイメージできるので便利だ。
マニュアル操作ができるアプリ「Manual Cam」も出た。ピントの位置、ホワイトバランス(色味)、シャッター速度、そしてISO感度の4つを操れる。特にピントの位置を自由に変えられるのはありがたい。ピントを最も手前に固定すればアップでの撮影に重宝する。シャッタースピードは10000分の1秒以下という一眼レフを超える速さでも撮れる優れものだ。
アプリの画面を見ると、ISO感度を1000以上にも設定できるようだが、今回試したみたところ500よりも高くはならなかった。感度をさらに高く設定できれば、写真表現の幅がもっと広げられるのではないかと思う。
さらに、報道カメラマンの視点でもう一つ注文を付けるとすれば、画質が落ちない光学ズームを搭載してほしかった。遠近感を強調したり、離れた被写体をシンプルにまとめたり……、ズームを使うと現場の様子をより的確に伝えられるからだ。国内メーカーの一部のスマホには光学ズームがついているが、構造の制約のためか、デザインがどうしても一般的なカメラに近くなりがちだ。このため、デザイン性を重視するアップルのスマホに光学ズームが搭載されることは想像しにくい。
撮った写真の処理にも触れておこう。新型iPhoneの基本ソフト「iOS8」では、画像編集アプリ「iPhoto」の機能が標準装備の写真閲覧アプリに集約されており、より細かい画像処理が可能になった。加えて、他社の画像処理アプリとも連携ができ、フィルター(画像の加工パターン)を自在に使えるようになったのは興味深い。
■動画、より滑らかに
また今回、アップルが売り物にしているがビデオだ。SNSでの動画活用は既にトレンドになっており、手軽にしっかりした動画を撮ってみんなに見てもらいたいと思う人も多い。「ヴィム・デルボア《低床トレーラー》2007年Collection of MONA, Australia」が展示されている横浜美術館前の広場や会場を行き来するバスの車窓を動画撮影してみた。
まずは広場で歩いて撮影。iPhone5sとiPhone6Plusのそれぞれを両手に持って撮ると、6Plusは手ぶれ補正のおかげで動画のブレも少ない。一歩一歩の振動が影響せず、移動シーンの動画はまるで映画のようになめらかだった。
スローモーションはiPhone5sに比べてより滑らかになった。240fps(1秒間に240フレーム)のスローで、撮影後に映像処理ソフトを使えばよりゆっくりな8倍スローに変換して楽しむこともできる。水の流れなどを撮ってみると、違いがわかりやすい。
新型iPhoneでは早送り動画のタイムラプスも標準装備された。タイムラプスはインスタグラムがアプリ「Hyperlapse」を出すほど人気の機能だ。例えば、旅の行程や行楽の様子を手短に紹介できるといった楽しみ方もできる。ただ純正カメラアプリでの同機能では、おもしろい動画は撮れるものの、早送りの速度が自分で決められないのが少し残念だ。
総じて、外部アプリの機能吸収と、性能の強化だけが目立つ感が否めないiPhone6Plus。だが触っているうちにいろいろと細かいおもしろ機能があることにも気付いた。中でも標準装備となったタイマー撮影は、約10枚分を一気に連写してくれる点がすごい。記念写真でまばたきをしたため撮り直し、といった失敗もなくなるだろう。美術館で作品を背にセルフィー(自分撮り)をする際にも活用できる。
デジタルカメラに劣る点は、残すところ光学ズームだけだろう。他社の4K対応のスマホでは、動画でデジタルズームをしてもフルHDの4倍の細かさなので拡大映像にしても十分堪えられる。ただし高精細な動画はデータ量が大きいという問題もあり、単純に細かい方がいいとは言えない。
◇
今年、国立科学博物館の重要科学技術史資料にシャープのカメラ付き携帯電話「J-SH04」が登録された。今から14年前、2000年に登場したいわゆる「写メ」ができる初めてのケータイで、「懐かしい」という声も聞こえてきそうだ。当時は持っていた人がヒーロー視されたのを思い出す。当然、画質や機能などさほど問われなかった。そしていつしかカメラ付き携帯電話は当たり前になった――。さて、10年後の私たちは、いったいどんなカメラや電話を手にしているのだろうか。
(写真部 寺沢将幸)
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