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妻の発病、出世はあきらめたはずだったが…

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昼の12時、デスクで手作りのお弁当を広げる。「愛妻弁当ですか?」との後輩の問いかけに、いや自分で作ったんだよ、と返すと、たいてい驚かれる。

「彩りも、おかずのバランスもばっちりじゃないですか。宮田さん、お料理上手なんですね~」。そんな言葉に対して、返す笑顔がぎこちなくなってはいないだろうかと、時々不安になる――。

大手IT関連会社の企画部門に勤務する宮田修一さん(46歳・仮名)の妻は、13年前、膠原病を発症した。上の娘が4歳、下の娘が1歳だった。

「出産前は、妻は商社の総合職としてバリバリ働くキャリアウーマンでした。出張で国内外を飛び回っていて、体力は私よりもあった方だと思います。しかし、2人目の子どもの育休明け直前のある朝、急にベッドから起き上がれなくなってしまったんです。突然のことでした」

膠原病は、自己免疫疾患により全身の臓器に炎症が起こる病気の総称で、人によってさまざまな症状があるが、妻の場合は関節の炎症と全身の痛み、倦怠感がひどく、朝起きて数時間は体が痛く、重くて動けない状況が続いた。ようやく起き出せても、少し動くとすぐに疲れてしまう。医者の診断により投薬を始め、普段の生活では極力無理をさせないようにとの指示が出た。

とても仕事どころではない。育休期間終了後、妻は休職に切り替え、回復後の復帰を目指していたが、半年後に断念。退職した。

必然的に、朝の家事は宮田さんの役割となった。朝早く起きてお弁当を作り、子どもたちを起こして着替えさせ、朝ごはんを食べさせる。そして幼稚園まで送り、それから出社だ。お迎えと夕食の準備は、妻がどうにか請け負ったが、それで妻の体力は使い果たされてしまうため、食後の洗い物や洗濯、掃除は宮田さんが帰宅後に行った。もちろん、土日は「専業主夫」状態だ。

掃除洗濯、料理や子どもの世話よりもやっかいだったのは

家事は嫌いではなかった、大学進学を気に一人暮らしを始め、26歳で結婚するまでは自炊をしていたので、食事の用意も、洗濯や掃除も、子どもの世話も、何とかこなせた。

一番やっかいだったのは、「自分の感情」だった。

「妻の症状は、見かけでは分からないんです。顔色も悪くはないし、普通に座っていたら病気には見えない。でも、すぐに疲れてしまうし、全身倦怠感も激しいらしい……頭では分かっているんですが……。朝、私が時間に追われて血相を変えてご飯を作り、まだ小さな子ども2人の面倒に追われている傍で、ゴロンと横になっている妻の姿を見ると、どうしてもイラっとしてしまうことがあって……」

妻も、自分の症状を理解してもらえないジレンマでストレスが溜まっていた。発症して数年は、宮田さんのイライラを察知し、突然感情を爆発させることも多かったという。「互いを思いやり、助け合わなくてはならないのに……ぶつかってばかりだった」と振り返る。

救いは、2人の子どもたちが聞きわけのよい「いい子」だったこと。幼いながらも、両親の現状を理解したのか、わがままも言わないし、手伝いも良くしてくれたという。2人の笑顔に、何度となく助けられた。

妻の症状は、新しい薬の効果もあり、しばらくは小康状態を保った。もちろん、働くのは無理だし、朝の家事は宮田さんに任せきりではあるが、昼までには起き出すことができるようになった。子どもたちが小学校に上がると、授業参観などの学校行事には何とか顔を出せるようになっていたという。

しかし、上の子が小学5年生になったある日、急に症状が悪化した。全身に痛みが走り、体を起こすこともままならなくなった。

これまで黙っていた妻の病気、初めて上司に打ち明ける

このタイミングで、宮田さんは初めて上司に妻の病気のことを打ち明けた。

「当時、私は39歳。そろそろマネジメント職が回ってくる年齢でした。妻の具合が悪化したら早退しなければならないし、子どもにもまだまだ手がかかる。地方在住の両親は70代も半ば過ぎ。体力の衰えも目立つ。とてもサポートを頼む訳にはいかない。そんな状況のいま、マネジメントの辞令が出ても、この状態ではとても引き受けられないどころか、通常の仕事でも迷惑をかける可能性があると思ったんです」

今まで打ち明けずにいたのは、妻はどうにか小康状態を保っていたし、言えば出世に少なからず影響するだろうと思ったから。しかし、今回のように症状が急変したら、もう黙っているのは難しい。出世は多少遅れても、自分ができる範囲の業務で最大限価値を発揮しようと決意した。

幸い、企画部門の仕事は、比較的自分でスケジューリングがしやすかった。ミーティングなど動かせない予定はコアタイムに入れ、それ以外の時間は極力「突発事項」に対応できるように組んだ。妻の症状も、薬の内容を大幅に見直したことで、症状急変から1年で少しずつ改善し、結果的には宮田さんが早退しなければならないほどの事態にはならなかったという。

やっと安定してきた生活スタイルだったが

それから5年経った現在――上の子は高校1年生、下は中学1年生になった。世に言う「反抗期の盛り」の年齢だが、父娘の仲はすこぶる良い。

「進路のこと、部活のこと、学校の友人関係のこと、何でも話してくれるし、相談もしてくれます。私が作ったお弁当も、喜んで食べてくれますしね。『お父さん、どんどんお弁当づくりがうまくなるよね。今日のタコさんウインナーはなかなか女子力高かったよ!』とかね。妻の症状もどうにか落ち着いてくれていて、再び学校行事くらいには時々顔を出したりできるようになりました。とはいえ、いつ突然悪化しないとも限らない。無理をさせないよう、娘と3人でできる限りの家事をしています」

「普通」とは少し違う形ながら、宮田さん一家ならではの生活スタイルが、ようやく安定して来た格好だ。

しかし半年前、自身のキャリアを考えさせられる出来事があった。

「評価面談の時期でもないのに、急に上司に呼ばれ、家庭の状況を聞かれたんです。『奥さんの調子はどうだ?』って。おかげさまでどうにか安定はしていますが、通院に付き添ったりしなければならないこともあるため、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれません、とお話ししました。上司は『そうか、大変だな。何かあったら何でも相談しろよ』と言ってくれたのですが……」

その1カ月後、人事異動の発表があり、その上司は異動。同じ部署の3年後輩が、後任に昇進した。

仕事では、後輩と差がないどころか、彼以上の実績を挙げていると自負している。業務時間内で最大限の効果が発揮できるよう、業務効率化も進めてきたつもりだ。しかし、3年も後輩が、自分より先に昇格した。どうしても、1カ月前の上司とのやりとりが思い出される。あれは、私と彼、どちらを後任にするのか、図るためだったのではないか――。

今の自分にはできないと実感、でも割り切れない自分もいる

客観的に見れば、会社としては正しい判断だと思う。部署の再編成で以前よりメンバー数が増えたため、上司となった後輩にかかるマネジメント負担は大きく、毎日終電帰りだと聞く。彼の働きぶりを見ていると、今の自分にはとてもできないと実感する。でも一方で、スパッと割り切れない自分もいる。

「妻の病気は気がかりなままですが、子どもたちは人の痛みが分かるいい子に育った。最近では、近場のスーパーに家族4人でショッピングに出かけたり、一緒に食事を作ったりもするようになりました。うちでは家族揃っての旅行はもちろん、一家での買い物もほとんどなかったですから。これも我が家なりに幸せな家族の形だと感じています。ただ、妻が発症してから13年間、いつも頭の中に家族のことがあり、やりたい仕事に純粋に没頭するという経験をしてこなかった。後輩の昇格を機に、自分だってやりたい仕事にどんどん手を挙げてみたい、何も考えずに仕事だけにとことん打ち込みたい、何ならキャリアだって追求したい……などと、いろいろな思いが湧き起こりました」

でも、無理なんでしょうね、と宮田さんは少しさびしそうに笑った。先日発表された人事異動では、別部署ではあるが30代の後輩がマネージャーに昇格した。自分より若い人が、どんどん上に行く。しかし、自分は自分――複雑な気持ちを抑えて、今日も宮田さんはぐっと前を向き、色とりどりのおかずで飾られたお手製のお弁当をほおばる。

(ライター 伊藤理子)

[日経DUAL2014年9月25日掲載記事を再構成]

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