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中村紘子ピアノ、外山雄三指揮「東京フィル第852回オーチャード定期演奏会」 デビュー55周年、ロマン派の神髄鳴らす

2014/9/30

 日本のピアニストの代名詞ともいえる中村紘子が2014~15年の今シーズンでデビュー55周年を迎え、9月23日の東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会に出演した。指揮は長年コンビを組んできた外山雄三。演目はリストの「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」。妥協せず難曲を選び、華麗なロマンチシズムを鐘のごとく鳴らした。

東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で演奏する中村紘子(9月23日、東京都渋谷区のBunkamuraオーチャードホール)=撮影 写真部 遠藤宏

 「5年前も外山先生の指揮でリストの第1番を弾きましたが、今日はその時よりもテンポが遅かった。私は追い立てたのですけど」。演奏後、中村はこう語り始めた。聴いた感じではそう遅い印象はなかった。非常に速い超絶技巧が随所に組み込まれた難曲をさらにもっと速く弾きたかったというのだから驚きだ。「リストの一番弟子だったエミール・フォン・ザウアーという大ピアニストが第1番の録音を残しています。それは速く弾かず、揺るぎなく堂々とした演奏です。そこで今日はそういうことならひとつザウアー風に行くかと」

 中村紘子が戦後日本のクラシック界をけん引してきたピアニストであることは間違いない。小中学生の頃から国内のコンクールで優勝を重ね、1960年に岩城宏之指揮の東京フィルとの協演でデビュー。同年にはNHK交響楽団の世界ツアーに随行するソロピアニストに抜てきされた。米ジュリアード音楽院に進学し、ウクライナ生まれのユダヤ系のピアニスト、ロジーナ・レヴィーンに師事した。門弟に米国人初のチャイコフスキー・コンクール・ピアノ部門優勝者のヴァン・クライバーンがいる名教師だ。そして中村も65年にはショパン国際ピアノコンクールで4位入賞と最年少者賞を受賞した。

東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で指揮を執る外山雄三(9月23日、東京都渋谷区のBunkamuraオーチャードホール)=撮影 写真部 遠藤宏

 演奏会の回数は国内外で累計3700回を超える。レコードやCDなどへの録音タイトル数は50点近くもあり、いずれもクラシック分野では異例の売れ行きを示してきた。テレビの音楽番組にも積極的に出演し、指揮者の小澤征爾とともにクラシック音楽を日本に普及させた最大の功労者の一人である。中村や小澤に憧れてピアノを習ったり、クラシック音楽を聴き始めたりした人が日本にどれだけ多くいることか。熱心なファンは数十年間にわたって中村や小澤の動静をずっと追ってきた。彼女らが世界に打って出た時期は日本の高度成長期と重なる。その中村がデビューして55年というのは感慨深いと思う人も多いだろう。

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