減塩のリスクと利益にはまだ研究が必要
つまり、PURE研究の結果では食塩7.6~15.2グラム、NUTRICODE研究の結果では食塩5.0グラム以下の摂取が推奨されているということになりますね。
PURE研究の結果は、米国で推奨される食塩摂取量を上回っており、減塩を推進する米心臓協会は、PURE研究の結果に対して、「このタイプの研究は、データの収集や解析法に結果が大きく依存するので、結果の解釈が難しい」と反対の姿勢を示しています。
さらに、NEJMの編集者は、減塩のリスクと利益について、最終的な結論には、さらなる研究の必要性があるとしています(The New England Journal of Medicine「Low Sodium Intake - Cardiovascular Health Benefit or Risk?」より)。
一方、PURE研究の研究者らは、マックマスター大学のホームページで、「塩分の摂り過ぎも、控え過ぎもどちらも問題。また、ナトリウムばかり気にして、カリウムの摂取の重要性が無視されている」とコメントしています(McMaster University「Salt consumption has a sweet spot: Too little and too much are both harmful, researchers find」より)。
加工食品やファーストフードなど外食に頼りすぎるのはNG
さて、私たちはこの研究の成果から何を学べるでしょうか?

まず、どちらの研究も、高血圧の人と高齢者に減塩を推奨しています。2006年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、40~74歳の日本人のうち、男性の約6割、女性の約4割が高血圧といわれています。また、高齢化社会である日本では4人に1人は高齢者です。ですので、公衆衛生の向上のために、塩分を1日6グラム未満に控えるべきというガイドラインは適当だと思います。
ただし一番の問題は、私たち個人が日常的にどのくらいの塩分を摂取しているか把握していないため、ガイドラインが活用されていないことです。米国人の食事中の食塩の75%以上が、レストラン、加工食品やファーストフードなどに由来しています。日本人における食生活の問題も同様であると思います。
まず、新鮮でバランスのよい食品を選び、自分で調理することが、減塩の一番の方法だと思います。新鮮な食品には、ナトリウムの含有量は低く、調理するときに、食塩の摂取量が確認できます。しかも、新鮮な野菜や果物にはカリウムが豊富に含まれていて、余分な塩分が排出されます。
摂取する食塩の量をきちんと把握するために、できるだけ自分または家庭で調理することと、新鮮な野菜を通じてカリウムの摂取に努めることが、結果的に「塩分を控えめ」にすることにつながると言えるのだと思います。

医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
[日経トレンディネット 2014年8月22日付の記事を基に再構成]