「自分なりの愛の育て方を思って」
俳優、堀北真希(上)
人気俳優の堀北真希さんが「家族の幸せを守りたい」と、芸能界からの引退を表明しました。NIKKEI STYLEの前身、日経電子版ライフでは2014年10月に公開された映画『蜩の記(ひぐらしのき)』で主人公の武士の娘を演じた堀北さんにインタビューし、上下2回に分けて公開しました。堀北さんが語る職業観、家族観について改めてご一読ください。2017年3月1日更新。
――出演依頼を受けたときの思いは。
「以前、大奥を舞台にした時代劇に出演したことがあるのですが、そのときはきらびやかな世界で、それはそれですごく美しかった。今回の映画は、村の武士の家族の生活が舞台ということで、そういった人たちの生活というか生き方にも興味がありましたし、何より原作も脚本も素晴らしかったですから、是非やってみたいなと思いました」
――撮影にあたり小泉監督からはどんな注文があったか。またどう役作りしたか。
「監督からはまず『所作や男性との触れ合い・接し方など、現代とは違うことがたくさんあるが、ナチュラルにやってほしい』と言われました。特に(檀野庄三郎役の)岡田准一さんとのシーンについては『男性に対する気恥ずかしさや奥ゆかしさをすごく出してほしい』と。現代では、初めて会う男性でも、そこまで恥ずかしいと思うことはないじゃないですか。だからそこは演じるのがとても難しかったですね」
「今回の私の役は武士の娘(薫)ということでしたので、武士の娘とは何たるものかというところから役作りの勉強をしました。監督から、武士の娘として生まれ後に海外に渡った実在の女性に関する本や、当時の生活について書かれた本など、いくつか参考になる本をいただきました。それを読み、表面的な形ではなく薫が実際にどういう女性だったか、どういう気持ちで生きていたか、を自分なりにイメージしてから撮影に入ったという感じです」
「難しかったのは、食事のシーンと舞のシーンです。なかでも一番大変だったのは食事の場面。膳を出す所作や食べる所作などすごくたくさんあり、しかもセリフも言いながらの演技なので、とても難しかったです。ご飯の食べ方ひとつをとっても、おかず・おかずと続けて食べてはダメで、おかずの後いったんご飯に戻らなければいけないとか、手がおかずの上を通らないようにしなければいけないとか……、大変でした。所作を学ぶために小笠原流のお稽古にも行きました。4人で踊る舞のシーンも難しかったです。手の角度や、指先の形など、私だけ間違っていたら目立ってしまうので。踊りには豊作を喜ぶという意味が込められていて、それを思い浮かべながら踊らなければならなかったし。現場で実際にみんなに見られながら舞うので、緊張もしましたね」
――作品で、現代との違いを強く感じたところは。
「現代と比べるとだいぶいろいろなことが違うと思いますね。登場人物たちの気持ちの面とか、家族の中でお父さんを一番立てる、それが中心・基本となって生活しているということ――とか。とてもまねできないなと思いました。ただ、やはり日本人として、そういうことを知っておくことは大切だなと感じました。ご飯の食べ方をとっても、自分は好きな物から迷わず食べちゃいますからね。今の時代と比べたら、ないものが多い時代ですが、撮影を通じて、目の前にあるものを一日一日大事にして過ごす生活を疑似体験できたのは良かったなあと思います」
「当時の女性は、自分から何かを主張したり、自分から何かをしたりとかいうことができないので、『受け止める大きな心』とか『対応する力』とか、そういうものがすごく必要だったんだと思います。例えば、お父さんが言ったことを『はい』と言って対処したり、今回の映画でいえば、父の命がいつまでと決められたことに対しての覚悟を持って生きていかなければならないこととか。面と向かってお父さんに『何でなの!』とは言えない。そんな時代だったんですよね」
――主演の役所広司さん(戸田秋谷役)や岡田准一さんとは過去にも共演している。
「役所さんとは以前に共演させてもらったことがあり、またこうして親子役をやらせてもらえたことは光栄です。役所さんは、本番以外のときでも厳格なお父さんに見え、私からすると、完全に役から外れるのではなくて、ずっと役を保っていらっしゃるような感じだった。ですから私もあまりフレンドリーには話しかけられなかったところがあります。役の中の薫のように、私も役所さんの姿を見ながら学んでいた感じです。最後のほうのシーンは、自分の決意とか信念とかがありながら、それでも家族のことを思ってくれていたりする、すごく複雑な難しい場面だったと思いますが、それでも、どっしりとピシッとお芝居されていて、すごいなと思いました」
「岡田さんとはデビューの映画でご一緒し、今回の撮影はそれ以来でした。久しぶりの共演ということで、最初は恥ずかしい感じもしました。デビュー当時の最初の撮影のときのこととか、そのときたくさん話しかけてもらったこととかを思い出しました。当時、私は何も分からない中学生だったので、岡田さんからいろいろ教えてもらいましたので」
――映画では家族愛や夫婦愛、師弟愛など様々な愛の形が描かれています。
「やっぱり家族愛とか夫婦愛はすごく美しく見えるじゃないですか。でも実際に自分が同じことをしようと思っても、今は難しいと思うんですよね。時代って進んじゃったら戻れはしないと思うんですよ。だからこそ美しく見えるものなんだろうし、まねをするのは難しいと思う。でも自分なりに、今の時代に合った愛の育て方、大切な人を大事にする方法があるはず。それを思いながら映画を見てもらえるといいなあと思います」
――撮影を終え、完成した作品の印象は。
「日本の四季を感じる背景というか、それがすごく奇麗だったのが印象的です。本当にその時代に生きた人たちの日常を見ているような、そういったものを感じました。私は遠野での撮影がほとんどでした。遠野を訪れたのは初めてで、撮影時期が春だったこともあり桜が本当にきれいで、山に囲まれていて静かで、すごくすてきなところだなあと思いました。プライベートでもぜひ行ってみたいですね」
(聞き手は電子整理部 松本勇慈)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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