お風呂で快眠できるワケ カギは脳温の変化にあり

2014/10/21

運動やカプサイシンなども入浴同様の効果

ちなみに、睡眠薬の中には脳温の低下作用を有するものが少なくない。そのような睡眠薬を服用すると脳の冷却が薬理学的に達成されてしまうため深い睡眠がむしろ減ってしまうことがある。この現象を睡眠薬による不自然な眠りと表現する研究者もいるが私はそうは思わない。主役が交代しただけの話である。

実際、深い睡眠が減っても睡眠感は改善する。逆に手足からの放熱を阻害するために深い睡眠が増加する薬物もある。その薬物を使用すると高齢者でも若者並みの深い睡眠が得られるようになったが、起床時に睡眠感を聞いてみると「あまり良くない」と答えたそうなので、実に快眠とは難しいものである。

体温の上昇作用を有する運動やカプサイシンなども、入浴と同様の効果があるとされる。特に運動については数多くの研究があり、入浴同様に夕方過ぎの運動に快眠効果がある。残念ながら軽運動の効果は限られており、寝つきは若干良くするようだが深い睡眠の増加は期待できない。運動当夜の快眠を狙うのであれば十分な体温上昇をもたらす高強度の運動が必要である。ただし激しい運動は交感神経を刺激しすぎてむしろ眠りを妨げることもあるので注意が必要である。クールダウンに要する時間(汗が引いて涼むまでの時間)にも個人差がある。自分に合った入浴や運動の時刻を見つけていただきたい。

中高年の方には、心血管に負担とならない程度の有酸素運動を地道に続けて筋肉量を増やし、基礎代謝を高めることをお薦めしたい。ただしこのような運動習慣によって快眠効果を得るには3~6カ月以上かかるのが一般的である。道は遠いがいったん達成すると安定した睡眠が得られるので、地道にチャレンジする価値がある。ヒロトさんも最近趣味のカメラを手にして撮影を兼ねた夜散歩を始めた。快眠習慣を勧める側としてはうれしい限りだが、職務質問など受けないものか心配している。

   三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

[Webナショジオ 2014年9月4日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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