お風呂で快眠できるワケ カギは脳温の変化にあり

2014/10/21

脳にとってはジェットコースター並みの急降下

入浴の効能には清潔、美肌、肩こり改善、リラクゼーションなど様々あるが、脳温を効率よく上げる加温効果が睡眠にとっては最も重要な作用である。快眠効果のある入浴時刻は限られており就寝前1.5~3時間が“ゴールデンタイム”である。逆に朝や昼間の入浴では快眠効果は認められない。

それはナゼか。図2を見ていただけば一目瞭然なのだが、就寝直前の入浴の方が急な滑り台を作ることができるからだ。昼間に入浴した場合には夕方過ぎには普段の脳温レベルに復してしまう。これでは快眠効果は期待できないことが分かっている。

図2 高齢者の方にご協力いただき、就寝2時間前に40℃、15分の半身浴が眠りと脳温に与える影響を調べた

私たちがある老健施設に入所中の高齢者にご協力いただき、就寝2時間前に40℃、15分の半身浴が眠りと脳温に与える影響を調べる研究を行ったことがある(図2)。入浴後30分以内に脳温は0.8℃ほど上昇し、消灯までに1℃ほど低下した。

大したことないって? いえいえ、脳にとってこれは富士急ハイランドの「高飛車」なみの急降下である。なにせ1日かけて下る山道を30分で滑り落ちたのである。実際、その落差が大きいほど寝つきが改善することも明らかになった。ちなみに41~42℃、30分以上の入浴で脳温を2℃近く上げるような研究も行われているが、心臓への負担を考えるとお薦めできない。

このような説明をすると「理屈は分かるがなんか解せぬ」と感じられる方々も多いようだ。睡眠は脳温を下げる手段ではないのか、わざわざ入浴で加熱するなどむち打って脳は休まるのか、と。

ここで逆転の発想が必要である。主役は冷えた脳ではない、冷却ファンの睡眠なのだ。脳がクールダウンしてしまっては睡眠の出番はない、脳がホットになるほど、いや炎上すればするほど睡眠の出番が増えるのである。鎮火よりも消火作業が花形なのであるから、まさにマッチポンプである。こうなるとタイトルは「眠りは脳の町火消し」の方がしっくりくるが、目を閉じるのに「め組」ではちと合わないので止めておこう。

関心のある方のためにもう少しだけ神経メカニズムについて解説すると、脳の視床下部前部にある睡眠中枢の近傍に温・冷感受性ニューロンがあり、その時刻にとって適切な脳温が維持されているかモニターしている。入浴など人為的操作で脳温が不自然に高まると温感受性ニューロンは睡眠中枢を活性化させるのと同時に、手足の末梢血管を拡張させる。皮膚表面近くに集まった血液は汗が蒸発する気化熱で効率よく冷やされ再び体の深部へと戻されるのだ。入浴は脳の冷却のため睡眠と放熱スイッチを同時に入れる実にスマートな仕掛けなのである。

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