お風呂で快眠できるワケ カギは脳温の変化にあり

2014/10/21
ナショナルジオグラフィック日本版

過去4回にわたって睡眠時間の長短に関わる3つの要因のうち、遺伝要因(必要睡眠量)と環境要因(生活習慣)について解説してきた。第3の要因「眠気に打ち勝つ力」に入る前に、今回は少し寄り道をして快眠につながる生活習慣として広く知られている入浴の効能とそのメカニズムについてご紹介したい。

お風呂好きと言えば、最近では漫画や映画がヒットした『テルマエ・ロマエ』のルシウスを思い出す人も多いだろう。しかし、私にとってお風呂で快眠と言えば、パッと頭に浮かぶ人物がある。さいとう・たかをの名作『サバイバル』の主人公サトルである。大震災をなんとか生き延び、放浪の末にたどり着いたある廃屋の中に温泉が湧き出ているのを見つけて大喜び。久しぶりの風呂を堪能したサトルであったが、湯温が高くのぼせてしまいそのまま睡魔に駆られてバタンキュー。蒸し暑い夜であったが泥のように眠りこけたのであった。

サトルに限らず、熱い風呂に入って一汗かいた後にスーッと眠気が差してまどろんだという経験をお持ちの方も多いだろう。古くから夏場の快眠法としてよく知られていた。実際に睡眠脳波を調べてみると、風呂に入って大いに汗を流した夜は寝つきにかかる時間が短く、深い睡眠も増えることが分かっている。考えてみれば不思議な話である。暑いときにさらに熱い思いをしてナゼ寝やすくなるのか…。

睡眠中は筋肉が弛緩(しかん)して産熱しないほか、末梢(まっしょう)血管が拡張して放熱するため体温が低下する。ここでの体温とは体深部にある脳や内臓の温度である(放熱のため皮膚温は逆に上昇する)。特に睡眠中に脳の温度が低下することは神経細胞の保護という観点から重要である。これはパソコンに例えると分かりやすい。パソコンを目いっぱい使うととても熱くなり冷却用ファンがうなりを上げることがある。ヒトに置き換えると、CPU(中央演算装置)が脳、睡眠が冷却ファンの役割を担うのだ。日中に加熱した脳の冷却のため睡眠が動員されるという図式である。

眠りは脳の冷却ファン(イラスト:三島由美子、以下同)
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寝つきが良く、深い睡眠が増えるカギとは